凪ぐ湖面のように
「ほーんと、最低!」

水谷プロデューサーをひと睨みして、友枝女史は湖陽さん……ではなく私に話し掛ける。

「この番組の対象者は貴女ぐらいの女性なの。だから、お話は貴女を中心に聞きます」

いきなり仕事モードになっている。ちょっと怖い。
いや、それより私に話を聞く?

「ということで、貴女、お名前は?」

嘘っ、カメラの前で話をするなんて無理無理無理!

ブンブン首を横に振り、「絶対に無理です!」と逃げに掛かる……が、友枝女史の動きの方が早かった。

ギュッと腕を掴まれ、「逃がさないわよ」とその眼が妖しく光る。
この人、九尾狐? なぜか妖狐が頭に浮かぶ。

ジリジリと迫る友枝女史。湖陽さんに助けを求めようと彼の方を見ると……水谷さんと楽しそうに談笑中だ。

おいおい、と突っ込みそうになる。彼女のピンチを助けるのは彼氏の役目だろう! 腹が立ってきた。

「――友枝さん、約束して頂けますか?」

「彼を」と湖陽さんを視線で指す。こうなったら、と悪魔が囁く。湖陽さんを犠牲にするしかない。

「カメラで映して頂いても結構ですが、私を正面から映さないで下さい」
「顔を晒すのが嫌っていうことね?」

頭の良い人だ。
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