凪ぐ湖面のように
そんな湖陽さんは、客に『若い店主』と舐められないようにと、シリアスな仮面で我が身を演出したそうだ。

これが功を奏したのか? 元々イケメンだったからか? 真相は定かではないが、『シニカルなイケメン店主のいる絶景店』と評判になり、雑誌などでも再三取り上げられるようになったみたいだ。

ただ、夕姫さん曰く、湖陽さんの印象は『謎多き』とか『クール』とか、ダークなイメージのイケメンに定着してしまったようだ。

でも、彼は其れを払拭するつもりはないらしい。真の理由は分からないが、今も湖陽さんはその姿勢を崩さず人前で笑わない。

私も噂でそう聞いていたのだが……何のことはない、真の彼は非常に明るく、よく笑う人だった。

でも、どうして私がそんなことを知っているのか?
それは……私の大いなる失敗 により露見したからだ。思い出しても恥ずかし過ぎる失敗だ。

バレてしまうと湖陽さんはあっさりダークな仮面を脱ぎ捨てた。
但し、私以外の人にバレないようにだが……そして、私のことも……。

秘密の共有は絆を強くすると言うが、私たちも類に漏れず、年齢を超えた旧知の仲のような間柄になった。

――といっても、私たちが会うのはこの店だけだが。

お互いにプライベートの電話番号もメールアドレスも知らない。それでいいと思っている。この他人行儀な距離が心地いい。
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