凪ぐ湖面のように
「お前、本当に何やってんだ! 勘弁してくれ、セクハラで訴えられるぞ」

沙希さんのお腹に腕を回した水谷さんが、彼女の背後で苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「だって、可愛かったんだもん」

プクッと膨れて唇を突き出す沙希さん、貴女の方が可愛いです、と心の中で反論する。

「すみません、こいつ、根っからの可愛いもん好きで、ほとんど病気なんです」
「何その病気って、失礼しちゃう」
「いえいえ、岬を可愛いと褒めて頂き、ありがとうございます」

私も友枝女史同様、バックハグ状態だ。
背中の湖陽さんを肩越しに仰ぎ、さっき以上に熱くなる。

「それより、セクハラって」
「あっ、まだ訴えられてはいませんが……時間の問題だと思います」

水谷さんの顎がコツンと友枝女史の頭頂部を小突く。

うわぁ、こういうのがリアル胸キュン場面というのでは?
いいものを見せてもらったと思わず合掌する。

「岬、君も何をしているのかな?」

湖陽さんの言葉で前を見ると、拝まれた二人がキョトンと私を見ていた。
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