凪ぐ湖面のように
「愛恋の滝が雄滝ということは知っているな」

頷くと太田のおじいちゃんは、「アレは元々、龍だったのだよ」とファンタジーなことを言い始めた。

「では、湖の名前を知っているか?」
「“名も無き湖”という名前だと聞きましたが……」

初めてこの名前を聞いた時、ふざけているのか、と舌打ちしそうになった。

「可笑しな名前だと思ったろう?」

太田のおじいちゃんがガハハと豪快に笑う。

身体は小さいのに、見た目以上に大きく見えるのは、その態度にあるとつくづく思う。

「あの湖は、『湖の姫』と書いて『このひめ』というお方の涙でできているそうだ」

太田のおじいちゃんの話によると、愛恋の滝がある辺りで、湖の姫がお付きの者とはぐれ、猪に襲われそうになったところを若武者に姿を変えた龍に助けられたということだ。

「その後二人は恋仲となったが、その年は日照り続きで作物が育たず、村人がえらく困ったそうだ。見兼ねた龍は本来の姿になり雨雲を呼び寄せ、雨を降らせた」

なんて優しい龍なんだと感動するが、ハタと思ってしまった。

「もしかしたら、それを湖の姫が見てしまったの?」
< 98 / 151 >

この作品をシェア

pagetop