ひとはだの効能

 いったん荷物を下ろして店の鍵を開け、客席を突っ切って奥のキッチンに入る。両手を塞いでいた大きな紙袋二つを作業台に置き、空調のスイッチを入れ、額の汗を拭った。

 冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出し一息ついていると、ポケットに入れっぱなしにしていたスマホが着信を告げた。

 見慣れない番号に一瞬戸惑いつつも、画面をスライドする。

「……はい?」
『お世話になっております。私、タニザキの本間と申します。岸川様でいらっしゃいますか?』

 電話の相手は、厨房機器のリースを頼んでいるメーカーの営業だった。前任者が急に異動になり、担当が変わったため、これから挨拶に来たいらしい。電話は、俺の都合を尋ねるためのものだった。

「いいですよ。今、店にいますし」
『ありがとうございます。今から十五分ほどでお伺いします』

 新しい担当者だという女性営業は、丁寧にお礼を言って電話を切った。

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