不思議の国の恋の音
舞台裏へ移動しても未だ歓声が聞こえる。
アンコールも終わって後はお疲れ会とその二次会。
「お疲れ様でしたーっ!」
楽屋に戻ると、スタッフさんがたくさん集まっていた。
楽屋のテーブルの上にはジュースやお菓子がいっぱい並んでいた。
「ことりちゃん、たしかこれから歌練あったよね?」
「あ、はい、すみません…。二次会までしっかり楽しんでくださいね!」
「ライブ終わった後だっていうのに、ことりちゃんも忙しいわね。でも今が大切よ!忙しいかもしれないけれど頑張っていきましょう!」
「はい!」

マネージャーやスタッフさんはみんな優しい人ばかりだ。
こんな大きな幸せはここにしかないし、ここでしか見つけられない。

忙しくたって仕方ない。



夜の街を明るい街灯が照らす。
今日はストリートフェスという祭りがあって人が多くなっているため、人通りの少ない近道を通るしかなかった。
(うぅ…でもやっぱり怖いなあ…)
夜10時ということもあって外は完全に真っ暗だ。人も少なく、塀だらけ。
「やっぱり普通の道に…」
「橘ことりさん、ですね?」
「ひゃっ!?」

急に後ろから名前を呼ばれて変な声が出た。
「こんばんは…いえ、はじめましての方が正しいかもしれませんね」
後ろから目の前にヒョッと現れた女性は黒いスーツを見に纏っていて、20代前半に見える。セミロングの天然ふわふわ髪がよく似合っている。
「あなたは…?」
「私は過去を作り直す会社『カコメイク社』の冴島昂桐(さえじま あぎり)です」

『カコメイク社』…?
そんな名前、聞いた時ない。

「おめでとうございます。今日をもって、橘ことりは私が担当することになりました」

……

「…え?」
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