亡国の王女と覇王の寵愛
あのとき、どんなに表面上は丁重に扱ってくれていたとしても、いざとなれば自分を捨ててまで助けようとする者などいないのだと思い知った。それもそのはず。国が滅んでしまえば、レスティアなどただの無力な小娘でしかない。彼女達が命を懸ける価値など何もないのだから。
だが、たったひとり。
(ディア兄様……)
脳裏によぎったのは、優しい従兄のディアロスだった。
彼ならば、連れ去られたレスティアを探してくれているかもしれない。だがあそこまで破壊し尽くされた王城にいた彼は、どうなったのだろうか。
無事でいてくれたらいい。
それは希望というよりも祈りに似た、切実な想い。ディアロスは今となっては、たったひとり残された血縁なのだ。
考え込むレスティアを前に、イラティは少しだけ扉の外を気にする素振りを見せると、何かをドレスの下から取り出し、そっと手渡した。ひやりとした固い金属の感触に、胸がどきりとする。
(これは……)
それは小振りのナイフだった。イラティがどうしてこんなものを渡すのかわからず、戸惑いの視線を彼女に向ける。
「ここは敵国です。今までと違って、自分の身は自分で守らなければならないのです。この国の兵士はジグリット様をとても恐れているので、そう無体なことはしないでしょう。ですがレスティア様は、そんな者達さえ惑わされてしまうのではないかと思うくらい、お美しいですから」
身を守るために使えと言うのだろう。
「ここから出ることができれば、ある程度の自由は得られます。そうすれば必ず、チャンスは巡って来るでしょう。今はおつらいでしょうが、それまでの辛抱です」
「……わかりました。お心遣い、感謝します」
忠告を受け取り、神妙に頷く。
それを見てイラティは安堵したように笑みを見せている。その姿に少しだけ罪悪感を覚えながらも、レスティアは人知れず決意を固める。
思いがけず、手に入った凶器。
いずれあの男はここに姿を現わす。そのときこそ、仇を取れないまでもせめて一矢報いたい。
そんなことをすればきっと殺されるだろう。
でも、死ねば父と母のもとに行ける。
だが、たったひとり。
(ディア兄様……)
脳裏によぎったのは、優しい従兄のディアロスだった。
彼ならば、連れ去られたレスティアを探してくれているかもしれない。だがあそこまで破壊し尽くされた王城にいた彼は、どうなったのだろうか。
無事でいてくれたらいい。
それは希望というよりも祈りに似た、切実な想い。ディアロスは今となっては、たったひとり残された血縁なのだ。
考え込むレスティアを前に、イラティは少しだけ扉の外を気にする素振りを見せると、何かをドレスの下から取り出し、そっと手渡した。ひやりとした固い金属の感触に、胸がどきりとする。
(これは……)
それは小振りのナイフだった。イラティがどうしてこんなものを渡すのかわからず、戸惑いの視線を彼女に向ける。
「ここは敵国です。今までと違って、自分の身は自分で守らなければならないのです。この国の兵士はジグリット様をとても恐れているので、そう無体なことはしないでしょう。ですがレスティア様は、そんな者達さえ惑わされてしまうのではないかと思うくらい、お美しいですから」
身を守るために使えと言うのだろう。
「ここから出ることができれば、ある程度の自由は得られます。そうすれば必ず、チャンスは巡って来るでしょう。今はおつらいでしょうが、それまでの辛抱です」
「……わかりました。お心遣い、感謝します」
忠告を受け取り、神妙に頷く。
それを見てイラティは安堵したように笑みを見せている。その姿に少しだけ罪悪感を覚えながらも、レスティアは人知れず決意を固める。
思いがけず、手に入った凶器。
いずれあの男はここに姿を現わす。そのときこそ、仇を取れないまでもせめて一矢報いたい。
そんなことをすればきっと殺されるだろう。
でも、死ねば父と母のもとに行ける。