亡国の王女と覇王の寵愛
 彼女が帰ったあとも、レスティアは自らの思考に深く沈んでいた。
 すると、何だか外が騒がしい気がする。厚い扉で遮断され、音はここまで届かないが、警護している兵士達の動揺が、ここまで伝わってくるような気がする。
(あの気配。昨日と同じだわ)
 思わず両手を固く握り締めて、レスティアは部屋の入り口に視線を向ける。
 敵国の王。
 覇王ジグリット。
 彼がふたたび訪れたのだろう。
 やがて、扉が開かれた。
 制止を振り切るような声とともに、想像通りの姿が目の前に現れる。
 その動きに合わせて揺れる赤い髪。
 ジグリットは部屋の中を見渡すと、窓の前に立つレスティアを見つめた。
「気分はどうだ?」
「……」
 その言葉には応えずに、レスティアは顔を反らす。
 ジグリットは部屋の中央まで歩み寄ると、小さな椅子に腰を掛けた。
 その堂々とした姿は古びた椅子でさえ王座に見える。身体に纏わりつく赤い髪を乱暴に背後に払うと、彼は立ち尽くしたままのレスティアを見上げる。氷のような目。射貫くような視線を向けていた。
 何をしに来たのだろう。
 やはり命を狙った自分を処罰しようとするのだろうか。
 死ぬのは怖くなかった。待ち望んでさえいたのに、ジグリットの放った言葉がレスティアを迷わせていた。
 真実を知りたい。
 それまでは、生きていたい。
 警戒を解こうともしない彼女に、ジグリットは語り掛ける。
「レスティア。お前は何を望む?」
「え……」
 罪というものについて、朝まで考え込んでいたレスティアの心を探り当てたかのように、彼はそう尋ねた。
 突然の申し出に戸惑う。
 望みを口にすれば、それを叶えてくれるのだろうか。どうして彼がそんな申し出をしているのかわからず、警戒する。
(どういうつもりなの?)
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