亡国の王女と覇王の寵愛
(どうして急に、こんな待遇に……)
 さすがに王女時代のように優雅な暮らしではないが、幽閉部屋に閉じ込められていたときとは大違いだ。
 戸惑いながらも、気分を落ち着けようと勧められるままに、まだ湯気の立っている紅茶を口にする。熱すぎずにちょうど良い温度で、レスティアはそれを両手で包み込むように持ったまま物思いに耽る。
 考えなければならないことが多すぎた。
 ジグリットの考えが、何ひとつ読めない。
(私をどうするつもりなの?)
 無理矢理この国に攫われてきたのは事実。でも亡国の王女を幽閉しておきたいのならば、このような部屋に移す必要はない。
 あのミレンと名乗った女性のことも気になっていた。この国の貴族の女性を、レスティアの傍につけようとしたのはなぜか。
 疑問は多かったが、ひとつずつ自分で考えて答えを導き出さなければならない。
(……真実を、探さなければ)
 そのままどのくらい、物思いに耽っていたのだろう。気が付けば、いつのまにかメルティーの姿も消えていた。
 声をかけて出て行ったのかもしれないが、記憶に残っていない。よほど深く、自らの思考に沈んでいたのだろう。すっかり冷めてしまったお茶を飲み干し、レスティアは立ち上がる。
 着替えも済ませたことだし、あれから随分と時間が経過している。向かい側にあるという図書室に行ってみよう。
 扉を少しだけ開けて周囲の様子を伺った。静まり返った廊下には人の気配はない。
 誰もいないことを確かめて、そっと部屋の外に出た。ここは敵国だという思いが、彼女の行動を慎重なものに変えていた。
「……ここね」
 幅の広い廊下を挟んだ向かい側に、普通の部屋よりも大きな扉がある。そっと手で押してみると、扉は軋んだ音を響かせてゆっくりと開いた。
 明るい陽射しが広がる。
 図書室だというのに大きな窓があり、そこから太陽の光が惜しみなく降り注いでいた。眩しい陽光に一瞬目を細めたレスティアは、目の前に広がる光景に思わず感嘆の声を上げる。
「まぁ……」
 想像していたよりも、ずっと広い空間。
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