亡国の王女と覇王の寵愛
(王妃……。そう、彼には妻がいたのね)
それなのに自分に口づけをしたのかと思うと、急に腹立たしくなる。
レティシアは不快そうに眉をしかめたが、目の前のミレンが困っている様子なのを見て、表情を和らげる。
「そうだったの。ええと、少し聞きたいことがあるの。構わない?」
「は、はい。私に答えられることでしたら何なりと」
この国の王妃はどんな女性なのだろう。こんな見事な図書室を贈られるくらいなのだから、読書好きの知的な女性かもしれない。
どうしてこんなに気にかかるのか、自分でもわからないまま、レスティアはミレンに向き直った。
「私のことは知っている?」
「……いえ、ただジグリット様の大切なお客様だとしか」
(知らないの?)
自らが滅ぼした国の王女だと、彼は打ち明けていないらしい。
メルティーはどうだろう、と色々と世話をしてくれた侍女の顔を思い出す。何となくだが、彼女は知っている気がする。
「だったら私のところに来てくれたのは、なぜ?」
「それは、私が本好きで歴史に詳しいからだと思います。ジグリット様のお客様が、歴史について知りたがっているから、わかりやすい本などを教えてやれと命じられました」
「そうなの」
ジグリットが、祖国の歴史を知ろうとしているレスティアの手助けをしてくれたのだろうか。
やはり彼の行動は謎が多い。
国を攻め滅ぼしておいて、どうして王女であったレスティアを殺さずに生かしているのか。どうして歴史を学べなどと言い、彼女のようなそれに詳しい人を傍につけてくれるのか。
そうして。
レスティアは無意識に唇を指でなぞる。
王妃がいるのに、どうしてあんなことをしたのか。
(……わからないわ。何ひとつ)
「レスティア様は、どの歴史を知りたいのですか?」
声をかけられて、慌てて顔を上げる。また物思いに耽っていたらしい。ミレンの目は輝いていた。本当に歴史が好きらしい。
「ええと、グスリール王国の」
それなのに自分に口づけをしたのかと思うと、急に腹立たしくなる。
レティシアは不快そうに眉をしかめたが、目の前のミレンが困っている様子なのを見て、表情を和らげる。
「そうだったの。ええと、少し聞きたいことがあるの。構わない?」
「は、はい。私に答えられることでしたら何なりと」
この国の王妃はどんな女性なのだろう。こんな見事な図書室を贈られるくらいなのだから、読書好きの知的な女性かもしれない。
どうしてこんなに気にかかるのか、自分でもわからないまま、レスティアはミレンに向き直った。
「私のことは知っている?」
「……いえ、ただジグリット様の大切なお客様だとしか」
(知らないの?)
自らが滅ぼした国の王女だと、彼は打ち明けていないらしい。
メルティーはどうだろう、と色々と世話をしてくれた侍女の顔を思い出す。何となくだが、彼女は知っている気がする。
「だったら私のところに来てくれたのは、なぜ?」
「それは、私が本好きで歴史に詳しいからだと思います。ジグリット様のお客様が、歴史について知りたがっているから、わかりやすい本などを教えてやれと命じられました」
「そうなの」
ジグリットが、祖国の歴史を知ろうとしているレスティアの手助けをしてくれたのだろうか。
やはり彼の行動は謎が多い。
国を攻め滅ぼしておいて、どうして王女であったレスティアを殺さずに生かしているのか。どうして歴史を学べなどと言い、彼女のようなそれに詳しい人を傍につけてくれるのか。
そうして。
レスティアは無意識に唇を指でなぞる。
王妃がいるのに、どうしてあんなことをしたのか。
(……わからないわ。何ひとつ)
「レスティア様は、どの歴史を知りたいのですか?」
声をかけられて、慌てて顔を上げる。また物思いに耽っていたらしい。ミレンの目は輝いていた。本当に歴史が好きらしい。
「ええと、グスリール王国の」