亡国の王女と覇王の寵愛
 彼女の視線は中庭に向けられていた。
 着飾った貴族達の群れの他に、あきらかに一般市民としか思えないような者も混じっている。侍女達は不安そうに顔を見合わせていたが、事情を知っているレスティアは笑顔を向ける。
「ディア兄様が、市民を何名か招待したようです。国の記念式典なのだから、その人達にも祝って欲しいと」
 そのひと言で、侍女達も笑顔を取り戻した。
「まぁ、ディアロス様が」
「ならば心配など不要ですね」
 侍女達はそれぞれ、ディアロスへの賞賛を口にしている。
 それは個人的な彼自身への憧れもあっただろうが、レスティアが好みの異性を尋ねられて彼の名を口にしたことが大きい。
 侍女達にとっては、王女の意見が世界のすべてだった。
「では、そろそろ移動致しましょう。もうすぐ式典が始まります」
 最年長の侍女に促されて、レスティアは少し緊張気味に頷いた。多くの侍女達を引き連れて部屋を出て、控え室に向かう。
 王太女とはいえ、あまり身体が丈夫ではないレスティアは、公式な行事にもほとんど出たことがない。政治や社会を学ぶのは、もう少し身体が丈夫になってからでよいと言う父の判断で、勉強も自国の歴史を軽く学んだ程度だ。
 だがレスティアは、この美しい祖国を愛していた。
 いずれ自分が治めなければならないという自覚もあった。
 この式典を機会に、これからはもっと国のことを学ぼうと思っていたのだ。
 とても美しいが無知な王女は、破滅が目の前に迫って来るそのときまで、愛していた美しい祖国が、もう崩れ落ちそうな土台の上にようやく成り立っていた状態だったとは、知らなかったのだ。

 レスティアが通る道は、厳重に警備されているはずだった。
 それなのに、幅の広い廊下をゆっくりと歩いていた彼女達の前に現れた三人の男達は、どう見ても警備兵には見えなかった。
 彼らを見た王女達の足取りがゆっくりとしたものとなり、やがて止まる。
 先頭に立っているのは壮年の男のようだ。その背後にいる二人は、まだ若者だろう。
 装いから察するに、どうやらさきほどまで庭園を散策していた市民のようだ。一応小綺麗にはしているようだが、歩き方やしぐさなどはやはり王城の住人とは違う。
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