亡国の王女と覇王の寵愛

疑問

 だからこそジグリットは、それを重要視しているのか。
 レスティアは知識を得ようと、必死に文字を追う。
 だが読み進めるごとに、彼女の表情は暗くなっていく。そこに書かれている歴史は、信じられないものばかりだった。
 それを認めたくなくて、レスティアは否定する部分を探し出していく。
「殺されたのは反逆者だけ、という記述もあるわ」
 ようやくその記述を見つけて読み上げる。
 ミレンは頷いた。
「そうです。この事件に関しては、なかったと主張している国もあります。それはすべてグスリールの友好国ばかりなのです」
「……」
 レスティアは無意識に唇を噛み締めていた。
 あの国が滅びる前にこれを知れば、色々と調べることもできただろう。どんなに巧妙に隠したとしても、事実ならばどこかに足跡が残るはずだ。だかもう、グスリール王国は存在しない。虐げられてきた人々に、何の償いもできない。
 身体が弱いから大切にされ、王城から出たこともなかった過去の自分は、ジグリットの言うように確かに罪があったとレスティアは思う。
 自分の国の歴史を他国の書物で知るなんて、いずれ女王になるかもしれない立場の人間には考えられないことだった。
 だが嘆いていても、もう時は戻らない。
 今はもっと、ミレンが選んでくれた本を読むしかない。
 本を開き、文字を追う。
 知識を詰め込もうと、ただ必死だった。
「……お前は集中すると周りが見えなくなるようだな」
 だから急にかけられた言葉に心底驚き、本を取り落としそうになりながら顔を上げる。ミレンが座っていたはずのその場所には、いつのまかジグリットの姿があった。
 彼は片肘をついてレスティアを覗き込んでいた。
 顔色を変えて後退る彼女の様子を面白そうに見つめ、レスティアが手にしている本に視線を走らせる。
「ミレンはなかなか役に立つだろう。図書室に立ち入る許可を与えたから、ほとんどここで過ごしているはずだ。好きに使え」
< 30 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop