亡国の王女と覇王の寵愛
 だから、もう何も尋ねずに本を読む。
 そのやりとりがあったせいで、それからは集中することができた。
 他国で書かれているグスリール王国の歴史には、どの国のものでもそう大きな差はないように見える。それでも細かく見てみると、小さな反乱などが何回も起こっていると書かれていた。
(でもこれは、グスリールの歴史書にはまったく記載されていないのね……)
 レスティアは、それを年毎に書き出してみる。
 すると反乱は百五十年前の事件の前年に、集中していることに気が付いた。
 それだけではない。去年にも、何度も地方で小さな反乱があったと、他国では記録されている。
(反乱なんて、そんなの知らなかった……)
 革命や反乱などがあったとしても、百五十年も前の遠い昔の出来事だと思っていた。それなのに、ここに書かれていることが事実ならばレスティアがグスリールの王城で何不自由なく過ごしていたあの頃にも起こっていたのだ。
「平和だったわ。みんな、とても穏やかに過ごしていた。それなのに」
 思わずそう呟いていた。
 王城から出たことがなかったから知らなかった。もうそんな次元ではないと、レスティアにもわかる。
 これは意図して隠されていた事実なのだ。
 真実は残酷なもの。
 ミレンの言葉が胸に響く。
「無知は罪。本当にその通りだわ……」
 レスティアはきつく、唇を噛み締める。自分の罪は、もしかしたら祖国を滅ぼしたジグリットよりも重いものなのかもしれない。

 一日を図書室で過ごし、日が暮れる頃にようやく部屋に戻ったレスティアは、メルティーの手伝いを断り、自分で簡易な服装に着替える。
 そしてミレンが集めてくれた資料と、図書室から借りてきた本を広げて考え込んでいた。寝台の傍に置かれた机の上には、色々な資料が積み重なっている。
「事件は、あったのかもしれないわ」
 ぽつりと呟き、レスティアは固く目を閉じる。
 祖国にそんな血塗られた歴史があるなんて信じたくなかったが、こうして詳しい資料に目を通すと、犠牲者の名簿や慰霊塔まであるのだ。事実無根だと言うには、あまりにも証拠が揃いすぎている。
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