亡国の王女と覇王の寵愛
(しかも慰霊塔も名簿も、巧妙に隠されている……)
 もしこれが嘘なら、もっと大袈裟に言い触らされていただろう。声の大きい主張ほど、信憑性は薄れる。
(こんなことが、私の国で起こっていたなんて)
 残酷な事実よりも、それをまったく知らなかったことがレスティアの心を打ちのめす。
 それでも歴史はもう変えようがない。過去にこれほどの事件が起きてしまったのならば、それを認めなければならないと思う。それなのに事件以降、代々のグスリール王は、どうしてこれをここまで隠蔽したのだろう。
 熱心に資料を読み耽っていると、部屋の扉を叩く音がした。
「……はい」
 咄嗟に窓の外を見ると、真っ赤な夕焼けが空を染めている。
(こんな時間に、誰かしら?)
 僅かに緊張しながら問いかけると、聞こえてきたのはイラティの声だった。
 彼女ならば何の問題もない。資料を簡単に片付けて、イラティを部屋に迎え入れる。
「こんにちは、レスティア様。昼間にお伺いしたのですが、お留守でしたので」
 レスティアがこの部屋に移動してきたから自由に会えるようになったと、彼女は嬉しそうに笑った。
「もう少し近ければ、もっと頻繁に会えますのに」
「イラティ様のお部屋は遠いのですか?」
 何となく、彼女も近くに住んでいると思っていたレスティアは首を傾げる。
「はい。ここは王城の中でも、この国の王族が居住している場所ですから。本来ならば、私が近づくような場所ではありません」
「……」
 口には出さなかったが、イラティはなぜレスティアだけがこの場所に移されたのか疑問に思っている様子だった。
(それはきっと、あの図書館があるからね)
 その答えは、もうレスティアの中にあった。
 前王が王妃のために作った図書室なのだから、王族の居住区にあるのは当然だろう。それを告げると、イラティは心底驚いたようにレスティアを見つめる。
「レスティア様も言われたのですか? 母国の歴史を知れと」
「……え」
 イラティも同じことを言われていたとは思わず、レスティアは戸惑う。
 ジグリットの意図は何なのか。
 どうして攻め込んだ国の王族を連れ帰り、その国の歴史を学べと告げるのだろう。
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