亡国の王女と覇王の寵愛
その言葉に、ジグリットは机の上に広げられたままの資料に手を伸ばす。かなりの厚さになっているそれを見て、満足そうに笑った。
「ミレンはよくやっているようだ。お前が価値のある人間ではなかったら、俺はここまでしない。残念なことに東のタジニー王国の国王は愚かな男だった。だからそのまま、あの国は消滅した。だがお前は違う。無知だっただけで、愚かではない。ここで知識と力を身につけるといい。それは必ず将来の役に立つだろう」
「将来?」
これからどうなるか。ずっと見ないようにしてきた現実を、急に突き付けられて不安になる。
「私にそんなもの……」
俯くレスティアに、彼は問いかける。
「国の名前が変わっても、そこに生きる人間は変わらずに生きていく。ならば国とは何のためにある? 誰のために存在している?」
「何のために?」
顔を上げると、ジグリットの真摯な目がレスティアを見つめていた。それは自らの中に決して揺るぎない信念を持っている者の目だ。
レスティアは確信する。
(この人は、ただの征服者じゃない)
もし彼が本当に自らの父を殺したとしても、ジグリットなりの理由が、信念があったのだろう。
そうでなければ、こんなにも真剣に国を語ったりしない。そして祖国を失い、亡国の王女と成り果てたレスティアに、学ぶ場所を提供してくれたりしない。
「すべての答えは、お前が学んでいる歴史の中に隠されている。そして百五十年前の事件、どう見た?」
ジグリットの指が資料の山を辿る。乾いた唇をそっと舐め、レスティアは自らの考えを口にした。
「……悲しいことだけど、事実だと思うわ。そして事件は厳重に隠蔽されていた。グスリール王国の歴史書にはどこにも記載がなかったから、私も知らなかった。でも、当時ならばともかく、今までの歴代の国王がどうしてここまですべてを隠し通そうとしたのかわからなくて」
「それはもちろん、権力者にとって都合の悪い事件だったからだろう。本来ならば、革命を起こそうとした人間を処刑するのは、見せしめの意味もある。だから隠したりしない。それなのになぜ、隠蔽したのか。それを探るには、もう少し過去から調べるといい」
「もう少し、過去?」
「ミレンはよくやっているようだ。お前が価値のある人間ではなかったら、俺はここまでしない。残念なことに東のタジニー王国の国王は愚かな男だった。だからそのまま、あの国は消滅した。だがお前は違う。無知だっただけで、愚かではない。ここで知識と力を身につけるといい。それは必ず将来の役に立つだろう」
「将来?」
これからどうなるか。ずっと見ないようにしてきた現実を、急に突き付けられて不安になる。
「私にそんなもの……」
俯くレスティアに、彼は問いかける。
「国の名前が変わっても、そこに生きる人間は変わらずに生きていく。ならば国とは何のためにある? 誰のために存在している?」
「何のために?」
顔を上げると、ジグリットの真摯な目がレスティアを見つめていた。それは自らの中に決して揺るぎない信念を持っている者の目だ。
レスティアは確信する。
(この人は、ただの征服者じゃない)
もし彼が本当に自らの父を殺したとしても、ジグリットなりの理由が、信念があったのだろう。
そうでなければ、こんなにも真剣に国を語ったりしない。そして祖国を失い、亡国の王女と成り果てたレスティアに、学ぶ場所を提供してくれたりしない。
「すべての答えは、お前が学んでいる歴史の中に隠されている。そして百五十年前の事件、どう見た?」
ジグリットの指が資料の山を辿る。乾いた唇をそっと舐め、レスティアは自らの考えを口にした。
「……悲しいことだけど、事実だと思うわ。そして事件は厳重に隠蔽されていた。グスリール王国の歴史書にはどこにも記載がなかったから、私も知らなかった。でも、当時ならばともかく、今までの歴代の国王がどうしてここまですべてを隠し通そうとしたのかわからなくて」
「それはもちろん、権力者にとって都合の悪い事件だったからだろう。本来ならば、革命を起こそうとした人間を処刑するのは、見せしめの意味もある。だから隠したりしない。それなのになぜ、隠蔽したのか。それを探るには、もう少し過去から調べるといい」
「もう少し、過去?」