亡国の王女と覇王の寵愛
「そうだ。なぜ、彼らは革命など起こそうとしたのか。それを知れば、きっとわかるだろう。だがもう少し体調が良くなるまで、図書室は禁止だ」
 レスティアは目の前に立つジグリットを見上げた。
「ならばこの部屋で読みます。ミレンに頼んで持ってきてもらいますから」
 体調を気遣ってくれているのは、さすがにわかったが、それでも早く真実が知りたくて、焦燥にかられてしまう。
 彼はレスティアの言葉に、わずかに笑みを浮かべる。
「熱心だな。だからこそお前には価値がある」
(……価値? こんな今の私に、何の価値があるというの?)
 何かに利用されるのではないかと警戒するレスティアを気にかける様子もなく、ジグリットは手を伸ばした。
 レスティアの頬に、そっと触れる。
「勘違いするな。俺が言っているのはお前自身の価値のことだ。学ぶことを恐れず、傷つくことも恐れずに真実を追求する。それは誰にでもできることではない。今のお前ならばきっと良い女王になるだろう」
「女王、なんて」
 国を滅ぼした張本人が、それを言うのか。
 祖国を失った悲しみが甦り、胸の中に広がる痛みを堪えるように俯く。
 いくら真実を見つけ出しても、もう亡国の王女でしかない自分が、滅びた国のためにできることなど何もない。イラティが、滅びた国の歴史に意味はないと言っていたのも当然だ。
「もうあの国は存在しない。私には何の償いもできない……」
 思わずそう呟くと、頬に添えられていたジグリットの指が、レスティアの金色の髪を撫でる。
「ならば俺の妃になるか」
「なっ……。からかわないで!」
 レスティアはその手を振り解き、思わず声を荒げる。彼にとっては、これもただの気紛れなのか。
「からかってなどいない。俺は本気だ、レスティア」
 気が付けば触れるほど近くに彼の顔がある。国を語っていた時と同じくらい、真剣な表情。
「あ……」
 からかわれているほうが、ましだったかもしれない。あまりの真剣さに恐ろしくなって、思わず視線を反らした。
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