亡国の王女と覇王の寵愛
 翌日から、レスティアは毎日のように図書室に通った。
 レスティアの新しい部屋も、やはり王族の居住区内にあり、図書室は遠くない。
 この区域の入り口近くは厳重に警護されているが、この周辺にはほとんど警備兵の姿もなく、侍女も少ない。王族が住んでいるのだからむしろ警備は強化するべきなのだろうが、その辺はジグリットの指示によるもののようだ。
 彼は過剰な警備を嫌っているのだろう。
 それでもさすがにレスティアの身の安全には気を付けているようで、レスティアの部屋の前と図書室の前には、凛々しい女騎士が警備に付くようになっていた。いままでの警備兵とは違ってレスティアを見張るのではなく、守るための騎士。彼女達を見るたびに、自分の立場が変わったことを思い出す。
 だがそれはけっして不快なものではなく、むしろジグリットが自分を気遣ってくれているのだと思うと、少しだけ嬉しさを感じていた。

 その日も朝食を終えると、侍女のメルティーに付き添われて図書室に向かっていた。
 今日はミレンが頼んだ資料を携えて来てくれるはずだった。レスティアのために扉を開けてくれる女騎士に微笑みかけ、図書室に入る。
「レスティア様」
 熱心に本を読んでいたミレンは、レスティアの姿に気が付くと椅子から立ち上がり、御辞儀をした。そうして目を細めて彼女を見つめる。
「どうしたの?」
「いえ、あの。初めてお会いしたときも思ったのですが、こうして正装されていると、本当にお綺麗だなぁ、と……」
 その様子に媚びるような色はまったく見当たらず、ただ若い娘が純真に美に憧れているだけのようだ。
 レスティアが亡国の王女だと知っても、そしてこの国の正妃になると決まった今でも、変わらず接してくれる彼女の好意が嬉しい。
「ありがとう」
 少し困ったように首を傾げ、それでも微笑みながら礼を述べる。
 グスリール王国の唯一の王女だったのだから、賞賛の言葉など慣れきっていたはずなのに、まっすぐに向けられた好意がとても嬉しかった。
 ミレンに頼んだ資料に目を通し、昼はメルティーが持ってきてくれた簡単な食事で済ませ、その後も読書に没頭した。
 豊かな金色の髪は今までたくさんの人達に賞賛されてきたが、読書には少し邪魔で、メルティーに頼んで背後で結んで貰った。
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