亡国の王女と覇王の寵愛
「今日は、戻って来ているのよね?」
ここ数日、公務が忙しいようでジグリットは姿を見せていない。今にも崩れ落ちそうだったグスリール王国を立て直すのは容易ではないのだろう。
(彼にとって、この国にとって、砂の城のような脆いグスリール王国を手に入れる価値はあったのかしら……)
国は豊かではなく、誇れるのはその歴史だけだった。王室が滅びた今となっては、その歴史など何の意味もない。
なぜ、彼はそんなグスリールに侵攻したのか。それだけはどれだけ資料を集めてもわかりそうになかった。
「はい。きっと夜にはお会いできると思います」
メルティーの返事に頷き、レスティアは部屋に戻る。ひとりきりで食事をすませ、彼の訪れを待った。
ジグリットがレスティアの部屋を訪れたのは、もう真夜中に近い時間だった。
きっと今まで仕事をしていたのだろう。
正装したままでレスティアの部屋を訪れた彼は、目の前に立つ彼女を見つめてわずかに目を細める。
「ずっと放っておいて、悪かった」
ジグリットはひとつに束ねていた赤い髪をやや乱暴に振り解き、ゆっくりとレスティアと向かい合わせに座る。
本当に忙しいのだろう。その顔も、いつもよりも青白く見える。
「いいえ。私にも、色々とやることがありましたから」
そう答えながらも、そんなふうに気遣ってもらえるとは思わず、驚く。周囲だけではなく、彼の扱いも今までとは違うようだ。
「ずっと向こうの図書室に入り浸りだったらしいな。せっかくお前のための図書室を作ったのに、気に入らなかったか?」
だからこそ、レスティアも素直に礼を言うことができた。
「いいえ。失われた国の本を、あんなに大切にしてくださってありがとうございます。でもグスリール国の本は、思い出を辿るためのもの。今、私が求めていることの役割を果たすことはできませんでした」
美しいだけで、何の実用性のない飾り物。
王女だった頃の自分のようだと、レスティアは自嘲気味に笑う。
「他国の歴史書をたくさん読みました。その中には、国を傾けるほどの贅沢をする父を諫め、追放されてしまった王太子もいました。たしかに何もしなくてもいいと言われていましたが、それに甘んじて何も知ろうとしなかったのは、私の罪。グスリール王国を滅ぼしたのはあなたではなく、私を含めたグスリールの王族だったのです」
ここ数日、公務が忙しいようでジグリットは姿を見せていない。今にも崩れ落ちそうだったグスリール王国を立て直すのは容易ではないのだろう。
(彼にとって、この国にとって、砂の城のような脆いグスリール王国を手に入れる価値はあったのかしら……)
国は豊かではなく、誇れるのはその歴史だけだった。王室が滅びた今となっては、その歴史など何の意味もない。
なぜ、彼はそんなグスリールに侵攻したのか。それだけはどれだけ資料を集めてもわかりそうになかった。
「はい。きっと夜にはお会いできると思います」
メルティーの返事に頷き、レスティアは部屋に戻る。ひとりきりで食事をすませ、彼の訪れを待った。
ジグリットがレスティアの部屋を訪れたのは、もう真夜中に近い時間だった。
きっと今まで仕事をしていたのだろう。
正装したままでレスティアの部屋を訪れた彼は、目の前に立つ彼女を見つめてわずかに目を細める。
「ずっと放っておいて、悪かった」
ジグリットはひとつに束ねていた赤い髪をやや乱暴に振り解き、ゆっくりとレスティアと向かい合わせに座る。
本当に忙しいのだろう。その顔も、いつもよりも青白く見える。
「いいえ。私にも、色々とやることがありましたから」
そう答えながらも、そんなふうに気遣ってもらえるとは思わず、驚く。周囲だけではなく、彼の扱いも今までとは違うようだ。
「ずっと向こうの図書室に入り浸りだったらしいな。せっかくお前のための図書室を作ったのに、気に入らなかったか?」
だからこそ、レスティアも素直に礼を言うことができた。
「いいえ。失われた国の本を、あんなに大切にしてくださってありがとうございます。でもグスリール国の本は、思い出を辿るためのもの。今、私が求めていることの役割を果たすことはできませんでした」
美しいだけで、何の実用性のない飾り物。
王女だった頃の自分のようだと、レスティアは自嘲気味に笑う。
「他国の歴史書をたくさん読みました。その中には、国を傾けるほどの贅沢をする父を諫め、追放されてしまった王太子もいました。たしかに何もしなくてもいいと言われていましたが、それに甘んじて何も知ろうとしなかったのは、私の罪。グスリール王国を滅ぼしたのはあなたではなく、私を含めたグスリールの王族だったのです」