亡国の王女と覇王の寵愛
(もうすぐ冬が来るのね……)
 北方に位置するこのヴィーロニアの冬は、きっと想像よりもずっと厳しいだろう。
 気温が下がるにつれ、窓を開けているとメルティーに注意されるようになってきた。
 心配してくれているのだろう。あまり身体が丈夫ではないと自覚しているレスティアは、素直にその助言に従っていた。
 それでも無性に、風に当たりたくなるときもある。
 何度も窓に手をかけ、そのたびにメルティーに注意をされて、ようやく諦めてそこから離れた。
(少し、疲れているのかしら……)
 溜息をついて、結んでいた髪を解く。
 美しい金色の髪がふわりと広がり、花の香りが周囲に広がった。
 ここ数日は、何も考えなくてもいいように根を詰めて読書に励んでいたせいで、髪をきつく結んでいると少し頭痛がする。ここで無理をして、ジグリットに余計な心配をかけるわけにはいかなかった。
 ディアロスから面会を拒否されてから、三日が経過していた。
 きっと彼はイラティからレスティアの様子を聞き、自分よりも仇であるヴィーロニア国王の言葉を優先させたことに失望したのだろう。
 仕方がないと、何度も自分に言い聞かせてきた。
 ディアロスを気遣うよりも、ジグリットの言葉を優先したのは紛れもない事実。
 それなのに会いたかったという気持ちと、会わずに済んだという気持ちが混じり合い、これだけの日が経過してもまだ、レスティアの心を悩ませ続けていた。
 いつまでも考えていても仕方がないとわかっている。どんなに悩んでも状況は変わらないし、もしやり直せたとしてもきっと同じ道を選ぶだろう。
 それでも鬱屈した思いはすぐには消えなかった。
 無理をしないと決めていたが、やはり本でも読んで少し気を紛らわせよう。そう思って図書室へ移動しようとした、そのときだった。
 部屋の外が騒がしくなった。
 王族の居住区であるこの場所はいつも静かで、話し声さえ滅多に聞こえない。今はジグリットが不在なので、なおさらだ。それなのに外の喧噪は、部屋の中にいてもわかる程だったから、何か異変が起こったのは間違いない。
 メルティーはすぐに、レスティアを守るようにしてその前に立ち塞がる。
 制止しようとする女騎士を押し退けて、駆け込むようにして部屋に入り込んできたのは予想していたようにイラティだった。ジグリットが不在の今、レスティアの部屋を尋ねてくるのは彼女だけだ。
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