亡国の王女と覇王の寵愛
(ここは、どこかしら?)
 たとえ王女であっても、あまり部屋から出ないように過保護に育てられたレスティアは、広い王城のすべてを把握しているわけではない。
 見渡してみると、どうやら普段あまり使われていない客室のようだ。
 大きなソファーの影に隠れ、痛みを訴える喉を押さえて、ゆっくりと深呼吸をする。
(……もっと遠くに逃げなくては)
 少し呼吸が落ち着き、窓から周囲の様子を伺ってみると、贅を尽くして造られた王城は無残な廃墟と化していた。
 硝子の砕け散る音が響き渡り、黒煙がゆっくりとうねりながら空へ昇っていく。
 侵略者が誰なのか、レスティアにはわからない。だがここまで王城を徹底的に破壊していることに、深い憎悪を感じた。
 誰がここまでこの国を憎んでいたのだろうか。
 そんな破壊し尽くされた王城の片隅で、王女であるレスティアはたったひとりで、蒼白な顔をして震えている。
 誰もが賞賛した輝くばかりの黄金の髪は乱れ、ドレスは無残な有様だ。
 これから生き長らえることができるかもわからない身では、そんな装いを嘆く気にもなれなかった。
 甲高い悲鳴が聞こえてきて、びくりと身体を震わせる。複数の悲鳴が、まるで断末魔のように響き渡る。
 ゆっくりと近づく足音が聞こえてきたのは、そのときだった。
「!」
 砕けた硝子を踏み締める固い靴音がする。さきほどの男達が、探しに来たのかもしれない。
 恐怖から震えそうになる身体を必死に抱き締めて、レスティアは息を押し殺す。
(お願い、向こうに行って……)
 今まで、レスティアの願いや望みが叶わなかったことなど一度もなかった。
 それなのに見つからないようにと、必死に祈っていた願いは誰にも届かず、とうとうレスティアが隠れている部屋の扉がゆっくりと開かれた。
「っ……」
 恐怖のあまり思わず悲鳴を上げそうになり、慌てて口もとを押さえる。それが聞こえてしまったのだろう。
 足音は部屋の中に入ってくる。
「誰かいるのか?」
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