亡国の王女と覇王の寵愛
「そんなこと……」
もしディアロスが改心しなくても、ジグリットに彼を処刑するつもりはなかった。ただ監禁部屋から出すわけにはいかないと、そう言っていただけだ。
でもジグリットを誤解している彼には、何を言っても通じないだろう。これ以上、刺激してはいけない。こちらに敵意はないと伝える必要がある。そう考え、レスティアはそっと背を向けた。
「私は、兄様を通報したりしません」
今はこうして道を違えるしかない。けれどいつか、きっと誤解が解ける日が来る。
そう信じて、レスティアはディアロスを逃がすことを選んだ。
ジグリットの信頼に対する裏切りだとわかっている。
一度幽閉部屋を抜け出してしまった彼を、これ以上王城に留めるのは危険だ。今度こそ、命を絶ってしまうかもしれない。
ディアロスの言葉よりもジグリットを信じたレスティアだったが、兄として慕っていた彼を大切に想う気持ちは以前と少しも変わらない。
だからこその苦渋の選択だった。
ディアロスは驚いたように目を細め、それでもこの機会を逃したらもう二度とここから出られないと思ったのか、入り口に向かって歩き出した。
擦れ違う瞬間に、彼は足を止める。
「レスティア。最後にひとつだけ教えておこう。国王陛下を、あの男は無残にも殺害した。私の言葉を疑うのならば、地獄の王と伝えてみろ。叔父が最後にあの男に告げた言葉だ」
それからどうやって部屋に戻ってきたのか、ほとんど覚えていない。
まるで雪崩のように次々と押し寄せて来る出来事に、心も身体も翻弄されて疲弊し切っていた。
メルティーの話によると、レスティアはひとりで歩いていたところを、彼女を探して王城中を彷徨っていた女騎士に保護されたらしい。今にも倒れそうなくらい、真っ青な顔をしていたようだ。
疲労と混乱で、何を尋ねられてもまともに答えることができず、すぐに寝込んでしまった。ようやく意識がはっきりしてきた時には、それから数日が経過していた。
それまで王妃付の医師によって止められていた面会もようやく許可が下りたようだが、何を聞かれてもどう答えたらいいのか、自分の中でも整理がつかない。だからまだ体調がよくないと訴えて、拒んでいた。
もしディアロスが改心しなくても、ジグリットに彼を処刑するつもりはなかった。ただ監禁部屋から出すわけにはいかないと、そう言っていただけだ。
でもジグリットを誤解している彼には、何を言っても通じないだろう。これ以上、刺激してはいけない。こちらに敵意はないと伝える必要がある。そう考え、レスティアはそっと背を向けた。
「私は、兄様を通報したりしません」
今はこうして道を違えるしかない。けれどいつか、きっと誤解が解ける日が来る。
そう信じて、レスティアはディアロスを逃がすことを選んだ。
ジグリットの信頼に対する裏切りだとわかっている。
一度幽閉部屋を抜け出してしまった彼を、これ以上王城に留めるのは危険だ。今度こそ、命を絶ってしまうかもしれない。
ディアロスの言葉よりもジグリットを信じたレスティアだったが、兄として慕っていた彼を大切に想う気持ちは以前と少しも変わらない。
だからこその苦渋の選択だった。
ディアロスは驚いたように目を細め、それでもこの機会を逃したらもう二度とここから出られないと思ったのか、入り口に向かって歩き出した。
擦れ違う瞬間に、彼は足を止める。
「レスティア。最後にひとつだけ教えておこう。国王陛下を、あの男は無残にも殺害した。私の言葉を疑うのならば、地獄の王と伝えてみろ。叔父が最後にあの男に告げた言葉だ」
それからどうやって部屋に戻ってきたのか、ほとんど覚えていない。
まるで雪崩のように次々と押し寄せて来る出来事に、心も身体も翻弄されて疲弊し切っていた。
メルティーの話によると、レスティアはひとりで歩いていたところを、彼女を探して王城中を彷徨っていた女騎士に保護されたらしい。今にも倒れそうなくらい、真っ青な顔をしていたようだ。
疲労と混乱で、何を尋ねられてもまともに答えることができず、すぐに寝込んでしまった。ようやく意識がはっきりしてきた時には、それから数日が経過していた。
それまで王妃付の医師によって止められていた面会もようやく許可が下りたようだが、何を聞かれてもどう答えたらいいのか、自分の中でも整理がつかない。だからまだ体調がよくないと訴えて、拒んでいた。