亡国の王女と覇王の寵愛
本を受け取り、ゆっくりと開いて眺めながらレスティアは彼女にそう囁く。
「聞きたいこと、ですか?」
首を傾げたミレンのまっすぐな黒髪が、さらりと肩を流れる。
「ええ。兄様が、ディアロスがどうなったのか知りたいの」
隣の部屋で待機しているメルティーに聞こえないように、小さな声で尋ねると、ミレンは表情を改めた。
まだ短い付き合いだったが、彼女とは何度も話をしている。だからこういう顔をしているときのミレンが何を考えているのか、レスティアにもわかるようになっていた。
これは、相手に好意をもっていないときの表情だ。
ミレンにとってディアロスは好ましくない人物なのかもしれない。
直接会う機会などなかっただろうになぜだろう、と少しだけ考えたが、それよりも今は知りたいことがある。
「ジグリットは何も教えてくれなかったの。心配しなくていい、とそれだけしか。それでも私は」
「それでも真実が知りたい、と思われたのですね」
こくりと頷く。
レスティアの目が決意に満ちているのを見たミレンは、手もとにあった本を一冊開き、紙とペンを取り出すと、まるで歴史書を書き写しているかのようにそこに文字を書いた。レスティアは本を開いたまま、無言でそれを見つめる。
【彼は逃亡しました】
整った綺麗な文字が、そう書き記していく。
それを読んで思わず息を飲んだ。彼は逃亡に成功していたのだ。この厳重に警備された王城から抜け出すのは難しいかもしれないと思っていたのだ。
どうやって逃げ出したのだろう。
【ひとりではありません。手引きをした者がいたのです】
続いて書かれた文字。
手引き。
それはディアロスを見逃した自分のことだろうか。レスティアは思わず両手を固く握り締める。
「……それは、誰?」
それでも、これが自分が引き起こした結果だとしたら、しっかりと受け止めなければ。そう震える声でそう尋ねたレスティアは、続いて書かれた名前に息を飲む。
「そんな、まさか……」
よく知る名前が、そこには記されていた。
「聞きたいこと、ですか?」
首を傾げたミレンのまっすぐな黒髪が、さらりと肩を流れる。
「ええ。兄様が、ディアロスがどうなったのか知りたいの」
隣の部屋で待機しているメルティーに聞こえないように、小さな声で尋ねると、ミレンは表情を改めた。
まだ短い付き合いだったが、彼女とは何度も話をしている。だからこういう顔をしているときのミレンが何を考えているのか、レスティアにもわかるようになっていた。
これは、相手に好意をもっていないときの表情だ。
ミレンにとってディアロスは好ましくない人物なのかもしれない。
直接会う機会などなかっただろうになぜだろう、と少しだけ考えたが、それよりも今は知りたいことがある。
「ジグリットは何も教えてくれなかったの。心配しなくていい、とそれだけしか。それでも私は」
「それでも真実が知りたい、と思われたのですね」
こくりと頷く。
レスティアの目が決意に満ちているのを見たミレンは、手もとにあった本を一冊開き、紙とペンを取り出すと、まるで歴史書を書き写しているかのようにそこに文字を書いた。レスティアは本を開いたまま、無言でそれを見つめる。
【彼は逃亡しました】
整った綺麗な文字が、そう書き記していく。
それを読んで思わず息を飲んだ。彼は逃亡に成功していたのだ。この厳重に警備された王城から抜け出すのは難しいかもしれないと思っていたのだ。
どうやって逃げ出したのだろう。
【ひとりではありません。手引きをした者がいたのです】
続いて書かれた文字。
手引き。
それはディアロスを見逃した自分のことだろうか。レスティアは思わず両手を固く握り締める。
「……それは、誰?」
それでも、これが自分が引き起こした結果だとしたら、しっかりと受け止めなければ。そう震える声でそう尋ねたレスティアは、続いて書かれた名前に息を飲む。
「そんな、まさか……」
よく知る名前が、そこには記されていた。