亡国の王女と覇王の寵愛
第五章

地獄の王

 ジグリットに逢いたい。
 メルティーを通してそう伝えて貰うと、返ってきた伝言で夕方には顔を出せると言ってくれた。レスティアは久しぶりに部屋着ではない服装に着替えると、自室で静かにその時を待つ。
 金色の髪も纏めようと思っていたが、また頭痛がするといけないと言うメルティーの助言に従ってそのままにしている。
 壁際に置いた椅子に腰を下ろすと、強い風が窓を叩いている。きっと冷たい風だろう。
 もうすぐ雪の季節になる。
 人が悩み、苦しんでいる間もこうして季節は留まることなく巡っていく。
 こうして静かに過ごしていると、祖国が滅びてからの出来事が、何度も繰り返し思い出される。
 つらいこともあったし、生きるのを諦めたこともある。
 ミレンの言葉がきっかけだったとはいえ、答えを見つけ出せたのは今まで学んできた歴史であり、そして自らの経験だった。間違ったことも多かったが、真実を追い求めたのは間違っていなかったと信じられる。
 だからこそ、ジグリットには何も隠しごとをしたくはない。
 ディアロスと会い、彼を故意に見逃してしまったことを話して、償いをさせてもらおう。

 夕陽が部屋の中に差し込み、壁を赤く染める頃、ジグリットは姿を現わした。
 きちんと着替えて出迎えたレスティアを見て、少し驚いたような顔をしながらも、片手で彼女を抱き寄せて頬に軽く口づける。
「体調はどうだ?」
「もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
 金色に輝く髪を優しく撫で、無理はするなと告げた彼のほうが少し疲れているように見える。いつもの堂々とした様子ではなく、レスティアの向かい側の椅子に座り、長い赤髪を掻き上げながらも、椅子の背もたれに身体を預けている。
 思えば父が政務をしている姿を見たことはないが、疲れた様子など一度も見せたことがない。彼を見て初めて、国王というものが予想していたよりもずっと激務だったと知った。それは王女だった身分を思えば恥ずかしいことだったが、これからはジグリットを手助けして、少しでも彼が楽になれるように努力していくつもりだった。
 これから告白することをジグリットが許してくれるのならば。
「急に呼び出したりして、ごめんなさい。でも、どうしても聞いてほしいことがあったの」
 レスティアの告白に、彼はほんの少し目を細める。思い当たることがあるような様子だった。
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