亡国の王女と覇王の寵愛
「……そう言えば、伝えてみろと言われた言葉があったわ」
そのときのレスティアは、あまり深く考えずに、ふと思い出した言葉を告げただけだった。
もう彼が、両親の仇かどうかということに固執してはいない。もしそうだったとしても、それなりの理由があったのだろうと信じていたから。
「ディアロスが?」
「ええ。たしか……地獄の王と言っていました」
父の最後の言葉だと言っていた。それが真実かどうかもわからぬまま、ただ聞かされたそれをジグリットに告げる。
「ジグリット?」
部屋の外に出ようとしていた彼が、動きを止めた。振り向いたその目に宿る険しい色に、思わず息を飲む。
「それを、ディアロスは何と言ってお前に告げた?」
「……私の父の、最後の言葉だと」
ありのままに告げると、ジグリットはしばらく押し黙った。殺気立ったような雰囲気に、レスティアは何も言えずにその姿を見つめるしかなかった。
「違う。それは俺の父が、死ぬ間際に遺した呪いの言葉だ」
やがて、ジグリットは静かにそう告げる。
(先代のヴィーロニア王の?)
自分の妃のために、図書室を作った人物。
そして五年前、実の息子であるジグリットに殺されたと噂されていた、あの先王が残した言葉だったのか。
それをなぜディアロスは、レスティアからジグリットに伝えるように仕向けたのか。考えるまでもなく、目の前のジグリットの顔を見ればわかる。
彼をこうして傷付けるために。
(ひどい……)
レスティアの胸に初めて、ディアロスに対する怒りが沸き起こる。
親殺しはあらゆる罪の中でも最も重い罪。どのような書物にもそう記されている。どんなに善行を積んだ者だとしても必ず地獄に落ちると、レスティアも幼い頃から言い聞かせられていた。地獄の王とは、そのような意味合いがあるのかもしれない。
「……そうだ。俺には、やらなければならないことがある」
ジグリットはまるでひとりごとのように、小さな声でそう呟いた。
「ジグリット?」
不安が、レスティアの胸をまるで暗雲のように覆い尽くす。
そのときのレスティアは、あまり深く考えずに、ふと思い出した言葉を告げただけだった。
もう彼が、両親の仇かどうかということに固執してはいない。もしそうだったとしても、それなりの理由があったのだろうと信じていたから。
「ディアロスが?」
「ええ。たしか……地獄の王と言っていました」
父の最後の言葉だと言っていた。それが真実かどうかもわからぬまま、ただ聞かされたそれをジグリットに告げる。
「ジグリット?」
部屋の外に出ようとしていた彼が、動きを止めた。振り向いたその目に宿る険しい色に、思わず息を飲む。
「それを、ディアロスは何と言ってお前に告げた?」
「……私の父の、最後の言葉だと」
ありのままに告げると、ジグリットはしばらく押し黙った。殺気立ったような雰囲気に、レスティアは何も言えずにその姿を見つめるしかなかった。
「違う。それは俺の父が、死ぬ間際に遺した呪いの言葉だ」
やがて、ジグリットは静かにそう告げる。
(先代のヴィーロニア王の?)
自分の妃のために、図書室を作った人物。
そして五年前、実の息子であるジグリットに殺されたと噂されていた、あの先王が残した言葉だったのか。
それをなぜディアロスは、レスティアからジグリットに伝えるように仕向けたのか。考えるまでもなく、目の前のジグリットの顔を見ればわかる。
彼をこうして傷付けるために。
(ひどい……)
レスティアの胸に初めて、ディアロスに対する怒りが沸き起こる。
親殺しはあらゆる罪の中でも最も重い罪。どのような書物にもそう記されている。どんなに善行を積んだ者だとしても必ず地獄に落ちると、レスティアも幼い頃から言い聞かせられていた。地獄の王とは、そのような意味合いがあるのかもしれない。
「……そうだ。俺には、やらなければならないことがある」
ジグリットはまるでひとりごとのように、小さな声でそう呟いた。
「ジグリット?」
不安が、レスティアの胸をまるで暗雲のように覆い尽くす。