亡国の王女と覇王の寵愛
(だとしたらお父様とお母様を殺したのは……)
 国王と王妃はあの御方が始末した。
 革命軍のリーダーらしき男は、そう言っていた。
 自分で両親を殺しておいて、それをジグリットの仕業だとディアロスは告げたのだ。そんなことを、レスティアがあっさりと信じると思ったのだろうか。
(……信じたかもしれないわ。あの頃の、無知な私ならば)
 伝えられたままを信じ、仇としてジグリットを憎んだだろう。それほどまで、あのときのレスティアは愚かな王女だった。
(でも今は違う。……私は、ジグリットに出逢い、真実を知って変わった。もう二度と、ディア兄様の……。ディアロスの言葉は信じない)
 今の話がレスティアに与える衝撃を、考慮していたのだろう。
 気遣わしげに見つめていたミレンは、レスティアが顔を上げ、頷いたのをきっかけに言葉を続ける。
「そんなジグリット様ですから、五年前の事件もすべて、この国のためでした」
 ミレンの声が少しだけ低くなる。
「五年前、ジグリット様が即位するまでは、この国もリステ王国やグスリール王国のように、国民の生活はとても厳しいものでした。本来ならば、先王は国王になる運命ではなかったのです。それなのにふたりの兄の相次ぐ死で、国王の座に就くことになってしまった。本や絵画などを好む、物静かな方でした。彼は政治や外交などの公務を嫌い、お気に入りの取り巻きや愛する妃を連れて、よく国内を渡り歩いて保養をしていました。もちろんそれには膨大な費用が掛かります」
 グスリール王国が国民の生活を省みることなく散財をしていたように。
 リステ王国が、王位を巡って争いを続けていたように。
 このヴィーロニア王国もまた、滅びの道をゆっくりと辿っていく国だったのだろうか。
「ジグリット様を始め、重臣達は諫めましたが、国王は聞く耳を持たなかったようです。もともと国を継ぐ意志もなかったお方ですから、この国の有り様にまったく興味がなかったのでしょう」
 それだけなら、ジグリットも強行手段には出なかっただろう。国王の地位には固執していない先王も、早く王位を譲りたがっていたのだから。そのままならあと数年後には、平和的に新王が誕生していただろう。
 だが今から六年前に、王妃が病死したことから運命が狂い出す。
 王妃は生来、あまり身体が丈夫ではなかったらしい。
 王族にしては珍しく、恋愛結婚で結ばれたふたりは深く愛し合っていた。そんな最愛の王妃の死は、もともと強くはなかった先王の心を完全に壊してしまった。
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