亡国の王女と覇王の寵愛
弱々しい声で懇願し、レスティアは後退した。強張った身体は自在に動かず、目の前に剣を突き付けられて思わず息を飲む。
「……金色の髪。緑色の瞳。お前はグスリール王国の王女、レスティアだな?」
確かめるように全身に視線を巡らせ、男は威圧的な声で問う。人に命令することに慣れきった、堂々とした声だった。
侵略者を目の前にして、怒りがなかったわけではない。
だが見下ろす彼の目はあまりにも冷たかった。
生まれて初めて感じた死の恐怖の前に、王女の怒りなど些細なものでしかなく、気が付けば思わず小さく頷いてしまっていた。
すると彼は剣をしまい、レスティアの手を取って強引に立ち上がらせる。
「い、嫌っ」
反射的に逃げようとするが、力強い腕は華奢なレスティアが暴れたくらいではびくともしない。
まるで死神のように冷たい手だった。
引き摺られるようにして王城から連れ出されると、そのまま馬車に押し込められた。逃げる暇もなく左右から拘束される。表情も変えずにレスティアの腕を拘束しているのは、簡易な鎧を身に纏った女騎士だった。
身動きがとれないようにしているものの、痛みを感じるほどではない。
それに馬車は武装した兵士に囲まれている。
ここで逃げ出したとしても、またすぐに捕まってしまうだろう。
そうなったら、今よりも厳重に拘束されるかもしれない。それを考えて、レスティアは大人しく馬車に身を委ねていることにした。
車輪が歪んでいるのか、狭い馬車は激しく揺れる。
(どこに向かっているのかしら……)
レスティアは首を巡らせて、遠くなっていく王城を見つめた。
生まれ育った王城は、もう見る影もなく無残な姿を晒していた。それでもレスティアは目を背けず、見えなくなるまで静かにその姿を目に焼き付けた。
消えていく祖国。
失われた家族。
涙が頬を伝い、滴り落ちる。
そんな王女の悲しみに共感するように、いつの間にか雨が降っていた。
流された血を、洗い流すかのように。
馬車は王城が見えなくなっても走り続けた。
疲れ果てたレスティアは、拘束されたまま目を閉じていた。
「……金色の髪。緑色の瞳。お前はグスリール王国の王女、レスティアだな?」
確かめるように全身に視線を巡らせ、男は威圧的な声で問う。人に命令することに慣れきった、堂々とした声だった。
侵略者を目の前にして、怒りがなかったわけではない。
だが見下ろす彼の目はあまりにも冷たかった。
生まれて初めて感じた死の恐怖の前に、王女の怒りなど些細なものでしかなく、気が付けば思わず小さく頷いてしまっていた。
すると彼は剣をしまい、レスティアの手を取って強引に立ち上がらせる。
「い、嫌っ」
反射的に逃げようとするが、力強い腕は華奢なレスティアが暴れたくらいではびくともしない。
まるで死神のように冷たい手だった。
引き摺られるようにして王城から連れ出されると、そのまま馬車に押し込められた。逃げる暇もなく左右から拘束される。表情も変えずにレスティアの腕を拘束しているのは、簡易な鎧を身に纏った女騎士だった。
身動きがとれないようにしているものの、痛みを感じるほどではない。
それに馬車は武装した兵士に囲まれている。
ここで逃げ出したとしても、またすぐに捕まってしまうだろう。
そうなったら、今よりも厳重に拘束されるかもしれない。それを考えて、レスティアは大人しく馬車に身を委ねていることにした。
車輪が歪んでいるのか、狭い馬車は激しく揺れる。
(どこに向かっているのかしら……)
レスティアは首を巡らせて、遠くなっていく王城を見つめた。
生まれ育った王城は、もう見る影もなく無残な姿を晒していた。それでもレスティアは目を背けず、見えなくなるまで静かにその姿を目に焼き付けた。
消えていく祖国。
失われた家族。
涙が頬を伝い、滴り落ちる。
そんな王女の悲しみに共感するように、いつの間にか雨が降っていた。
流された血を、洗い流すかのように。
馬車は王城が見えなくなっても走り続けた。
疲れ果てたレスティアは、拘束されたまま目を閉じていた。