亡国の王女と覇王の寵愛

永遠に

 レスティアは立ち上がった。
 ミレンの青い目をしっかりと見つめ、力強く告げる。
「私は彼と一緒に生きると決めた。それを誰にも邪魔させたりはしないわ。呪いの言葉にも、ジグリット自身にも」
 レスティアはまっすぐに前を見つめる。そして手を伸ばし、ミレンをしっかりと抱き締めた。
「ありがとう、ミレン。あなたの御陰でまた真実を知ることができた。戦う勇気ももらったわ。私は必ず、ジグリットをあの呪縛から解き放ってみせる」
 ミレンもまた手を伸ばしてレスティアをしっかりと抱き締める。今だけは身分を忘れ、本当の親友のように抱き合っていた。
「レスティア様。ジグリット様を、この国をどうか守ってください……」

 それから何度も、メルティーを通して会いたいと伝えてもらった。だが、ジグリットからの返事はいつも同じだった。
 落ち着いたら連絡する。それだけだ。
「……持久戦になるかもしれないわね」
 窓の外に降り積もる雪を見つめながら、レスティアは小さく溜息を付いた。
 数日前から降り始めた雪は止む気配もなく、もう何日も降り続いている。
 体調を崩さないようにと、暖炉にはいつも火が入れられ、暖かい上着などが何着も届けられた。それでもジグリット本人は、あれから一度も姿を見せない。
 五年かかってようやく少し薄れていた呪いが、知らなかったとはいえ自分が伝えてしまった言葉で再燃してしまったのだ。
 焦ってはいけないのかもしれない。
 レスティアは無理をしない程度に少しずつ、この国の歴史や慣習を学んでいた。春になって温かくなれば、地方に視察にも行こうと考えている。
 ジグリットの代になってから五年。
 国民の生活は少しずつ建て直してきているとはいえ、地方には夫が出稼ぎに出て、その間は女手ひとつで子どもを育てている女性が多い。そんな女性達を支援する方法を、レスティアはずっと考えていた。
(この国だけじゃないわ。他の国だった土地にもそういう女性は多いはず。まして今は、その土地もすべてこのヴィーロニア王国の一部なのだから)
 ふと思い付いてメルティーに話すと、彼女も未亡人だったらしく、その考えに大いに賛同してくれた。その立場から提案してくれる事案はどれも実用的で、計画は着々と進んでいる。
< 92 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop