居酒屋探偵
俺は彼女が去ってから、店長に耳打ちした。
若い女店長は腰に巻いた前掛けエプロンで手を拭きつつ、呑気に答える。
「あぁ、最近入ったバイトの子だよ。酒井 吏希琉(さかい りきる)ちゃんって言うんだ。大学生だけどほぼ毎日シフト入れてる頑張り屋さんでね~」
大学生か……女子高生だって言っても普通に通用しそうな顔してっけどな。
いわゆる童顔というやつか。
「ま、これからしょっちゅう会うだろうし、仲良くしてあげてね?」
「仲良くって……」
おいおい。
俺は独り身の三十路だぞ?
何もしてなくても若いのと一緒にいるだけで怪しまれる時代なのに、それは逆に困る。
それに、あの小ずるい笑顔。
心の奥底までニヤニヤしながら見透かされそうで、若干の恐怖さえ感じられた。
一目見て分かった。
俺はあの娘が苦手だと。
「灰皿、交換致しますかー?」
「うぉっ、びっくりした」
いつの間にか、さっきの吏希琉とかいう娘がまた来ていた。
片手には新しい灰皿。
俺は無意識に何本も吸ってたらしい。
既に置いてあった灰皿は灰と吸殻でで山盛りになっていた。