居酒屋探偵
「ほらよ。つまんねー仕事だけど」
ポケットに入れてた名刺入れから一枚取り出し、ペイっと手に放る。
[ナトリ私立探偵事務所
所長兼探偵
名取 康明(なとり やすあき)]
と書かれた、普通の名刺だ。
「た……た、探偵……?」
吏希琉は名刺を握りしめ、わなわなと震えた。
名刺が生き物だったら悲鳴を上げるんじゃないかってくらい破れそうになってる。
そんなに探偵が嫌いなのか?だとしたら好都合。あいにくこいつと仲良くする気はさらさらない。というか出来る気もしない。
潔く嫌われた方が楽……
「すっごーい!すごいすごい!探偵って本当にいたんだ!!日本にもいるんだ!!やば!やばやば!やばたにえん!!」
やば……たに?
よく分からないが、吏希琉はなぜだかシワになった名刺を蛍光灯の明かりに透かしてくるくるぴょんぴょん飛び跳ね回っている。
これは喜んでるのか?
「私、ずっと探偵に憧れてたんです!こんな所でお会い出来るなんて、嬉しい!」
「はぁ……探偵って言っても、シャーロックホームズみたいに殺人事件に駆り出されたり安楽椅子に座ったりしねぇぞ?浮気調査とか迷い犬探しとかそんなんだ」