歌う少女、笑う少年。

成宮さん、は、興味が外れたのか、また「つーつつつー」と歌っていた。



「あー……」

死ぬほど疲れた。何あの子たち。
成宮さん、が、歌うたび「くすくすくすくす」、ちらりとでもこっちを見ると、「気があんの? うーわー」、 そして「鈴木くーん、やっぱうざいことなーい?」。
いや、さ、うれしいんだよ? 僕のことを憎からず思ってくれてるのは。
でもうざい……成宮さん、より3倍くらいうざい。

図書室なんて、いつもは行かないのに行こうと思った理由は特にない。
ふらふら、歩いてたら『図書館へ来てください!』の貼り紙を見つけたから、何となく、本当に何となく。
意外と読みたかった新しい本もあるんだなあとか思いながらふらふら歩いてたら「あっ」と誰かが小さく叫んだ。

「鈴木くん」
「あ、成宮さん」

すすすすすーっと、音を立てずに移動して来て隣でふっと立ち止まる。

「あのさー」
「はい」
「何見てたの?」
「え」

と……。
どういうことなのだろうか。

「ずーっと、こっち見てたけど、わたしの後ろ見ても何にも面白いもんなかったけど、何を見てたの?」
「え? 見てたかな、そんな」
「見てた。ずーっと見てた」

歌ってるのが珍しいからかなあ、また歌ってるって思ってかなあ、んー、と言うと、わたしを見てたの? とびっくりされてしまった。

「鈴木くんてさ」
「なに?」
「無理に笑ってるよね。好きなようにすればいいのに」
「は」

好きなように、ってなんだ。
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