夢から醒めた夢
7th*imitation
私が、彼について知っていることは少ない。
影山慎吾という名前。
住んでいる家。
そして、母親と同じ会社で働いているということ。
ただ、それだけ。
年下だとということは分かっていても、正確な年齢さえも知らない。
一緒にご飯を食べていたのに、彼の好みも分からない。
何が好きで嫌いだったのか。
女の服の好みだけは聞いた気がする。
だけど、それが何になるんだろう。
服の好みなんて、今更変えられない。
あれだけ逢っている時間は長かったのに、何を話していたのだろう。
主に世間話だった?
もう、そんなことさえ思い出せない。
「まさか、そんなことになっているなんて……」
神妙な面持ちで、菜緒が言う。
彼から離れ出した頃、いっぱいいっぱいで、仕事以外で誰かと逢う気分にならなかった。
むしろ、誰とも逢いたくなくて、家にこもっていた。
だから、菜緒と逢うのも前回全てを話して以来だった。