イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

案の定、ランチを終えて会社に戻る途中、零士先生から《今日のモデルは仕事で中止》とメッセージアプリに着信があった。


てことで、仕事が終わりに薫さんと待ち合わせをして彼女のマンションに向かう。


実のところ、薫さんは女ひとりで環ちゃんを育てているから、こじんまりしたマンションに住んでいるんだろうと思っていた。だが、案内された部屋は想像していた以上に立派で、間取りは3LDK。三人で住むには十分な広さだ。


都心でこれだけの物件を購入できるってことは、春華堂の常務秘書の給料って相当いいんだ……なんて下世話なことを考えつつリビングに入ると、ソファーに座った館長がテレビをつけたままウトウトしていた。


「父さん、希穂ちゃんが来てくれたわよ」


その声に反応して顔を上げた館長。以前より少し細っそりしていたが、トレードマークの顎ヒゲはそのままで優しい笑顔を私に向ける。


「おぉ~希穂ちゃん、生きとったか~」

「生きてますよ~館長より早く死ぬワケないでしょ?」


こんな冗談を言えるのも一つ屋根の下で暮らしてきた家族同然の館長だからこそ。


それから館長と矢城ギャラリーの話題で盛り上がり楽しい時間を過ごした。暫くすると薫さんが夕食を用意してくれたというのでダイニングテーブルに場所を移し、今度は薫さんも加わってArielの個展の話しになる。


「あ、そうだ。今日、役員会があってね、Arielの個展会場の名称がやっと決まったのよ」

「名称って……"矢城ギャラリー"じゃないんですか?」

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