イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

あ……


思わず立ち上がってテレビ画面を凝視するも、あっという間にCMは終わってしまい、ちゃんと観ることはできなかった。でも、新太さんが言っていた大手化粧品会社のCMだったし、モデルのバックには現代アートっぽい絵が見えた。


彼には酷いことされて恨んだこともあったけど、それももう過去の話し。彼は彼で頑張ってくれればいい。今はそう思える。だから冷静に「そうみたいだね」と言って静かに椅子に腰を下ろす。


しかし環ちゃんは「もう一回、流れないかなぁ~」って、興奮気味にテレビの画面にかじり付いている。その姿を薫さんがジッと見つめているのに気付いたのは、再び箸を持った時。


「環……あなた、画家の新太を知ってるの?」

「んっ? 知ってるよ。矢城ギャラリーで何回か個展開いてたし、希穂ちゃんの元カレだもん」

「えぇっ! 希穂ちゃんの元カレ?」


薫さんが驚くのは無理もないが、館長まで「本当なの?」と目を見開いていることに仰天した。


「館長、私と環ちゃんが矢城ギャラリーの事務所で新太さんの話ししてたの聞いてなかったの?」

「はて? そんな話ししてたっけ?」

「はぁ?」


ダメだこりゃ……常に二日酔いでボーッとしてたから、人の話しなんて聞いてなかったんだ。


呆れてため息を付くも、館長は全く気にする様子もなくいそいそと立ち上がり「ワシも見逃した」と言って環ちゃんと並んでテレビを観始めた。


どこまでもマイペースな館長の背中を見つめ「相変わらずだな」と呟くと、薫さんが詳しい話しを聞かせてと真顔で迫ってくる。

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