イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

どうせ知るなら他の人からじゃなく、零士先生本人の口から直接聞きたかった。


ねぇ、零士先生、どうして話してくれなかったの? 薫さんとふたりだけの秘密だから? それとも私がまだ子供だからショックを受けると思ったの?


膝小僧を抱え虚ろな目で事務所のドアを凝視するが、今日に限って零士先生はなかなか来ない。――待つこと二時間、ようやく廊下を歩く足音が聞こえてきて目の前のドアが開く。


「なんだ、ここに居たのか?」

「零士先生……」

「遅くなって悪いな。帰り際、急な来客があって電話できなかった」


いつもと変わらぬ優しい笑顔。涼し気な瞳が私を見つめている。それだけで涙が出そうになった。そんな私の様子に気付いたのか、零士先生が「何かあったのか?」と真顔で近付いてくる。なので、思わず聞いてしまった。


「私、零士先生の彼女ですよね?」

「なんだいきなり? 俺はそのつもりだが?」


至って冷静に答える彼に、意を決してあの疑問を投げ掛けてみる。


「……環ちゃんの父親って誰ですか?」


一瞬、零士先生の動きが止まり、涼し気だった瞳が何かを警戒るすような鋭い目つきに変わった。


「それを知ってどうする?」


正直、怖かった。零士先生を怒らせて嫌われるんじゃないかと体が震える。でも、このまま曖昧にする方がきっと辛い。


「噂を聞いたんです。環ちゃんが零士先生の娘だって噂を……お願いです。本当のことを話してください」

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