イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
環ちゃんは私と零士先生が付き合ているってことをまだ知らない。
何度も言おうとしたのだけど、零士先生を父親のように慕っている環ちゃんの姿を見ると言い出せなくて……それに、私と零士先生の関係を知っている薫さんも何も言ってないようだったから、言っていいものかどうか迷っていたんだ。
薫さんも環ちゃんの気持ちに気付いているから黙っているのかな? でも、私と零士先生が付き合ってると知ったら、環ちゃんガッカリするだろうな。
なんだか居たたまれなくなり、さり気なく話題を変える。
「で、館長は元気にしてる?」
「あ、おじいちゃんなら変わりないよ。それよりさぁ、ママが変なんだよ」
「薫さんが?」
そう言えば、最近、会社で薫さん見てないな。
「なんかさぁ、ボーッとしちゃって……話し掛けても上の空だし、この前も塩と砂糖を間違えてめっちゃしょっぱい肉じゃが食べさせられちゃったよ。おじいちゃんが血圧上がって死んじゃうって怒ってた」
あの薫さんがそんなミスするなんて信じられない。どうしたんだろう?
「いつから変なの?」
「うーん……あっ、ほら、希穂ちゃんがウチに遊びに来たでしょ。あの頃からだと思う」
私が館長に会いにマンションに行った日から? それって、薫さんに零士先生と付き合ってるって告白した日だ。
もしかして薫さん、平気な顔してたけど、本当は……
ああっ! ダメだ。私ったら、また勝手に勘ぐって変な想像してる。薫さんだって仕事で色々あるだろうし、悩むことだってあるはず。たまたまだよね。