イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
そう自分を納得させた時だった。環ちゃんのスマホが鳴る。
隣の客に気を使って環ちゃんが席を立つと、対面に座っている輝樹君が前屈みになり、神妙な顔で聞いてきた。
「もう心の傷は癒えた?」
「心の傷って?」
「新太先輩のことだよ。あんな酷いことされたんだ。すぐに気持ちを切り替えるのは難しいかもしれないけど、人生、悪いことばかりじゃないらさ……僕で良かったらいつでも相談に乗るよ」
どうやら輝樹君は、私がまだ新太さんのことを引きずって落ち込んでいると思っているようだ。
「あぁ、新太さんのことならもういいの。全然気にしてないから」
それは嘘偽りのない本当の気持ち。なのに輝樹君は私が強がっていると勘違いしたようで「無理しなくていいよ」って切なそうな顔をする。そんな調子だから何を言っても同情されて信じてもらえない。
このままじゃ、埒が明かない。仕方ないな。輝樹君には本当のことを話すか……
でも、環ちゃんにはまだ内緒にしておきたかったから、零士先生の名前は出さず、仕事で知り合った画家の男性と付き合っていると打ち明けた。
「ええっ! 画家の彼氏? それマジ?」
「うん。絵のモデルになって欲しいって言われたのがきっかけでね……」
皿に残っていた最後のラザニアを頬張り照れ笑いを浮かべると、なぜか輝樹君が怖い顔で睨んできた。
「それで……モデル、してるの?」
「あ、してる……けど」
今まで見たことのない輝樹君の険しい表情にフォークを持つ手が止まる。