イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
「じゃあ、初恋の人のことはもう好きじゃないんですか?」
その質問に婦人は俯きながら「私は諦めの悪い女でね……」と切なそうな目をして笑う。
「この歳になっても、裸婦画を見るとドキッとするのよ。そしてあの人が描いた絵じゃないと分かるとホッとするの。彼が私の裸婦画を手放さず、今でも手元に置いてくれているなら、きっと私はまだ彼に愛されてる……そんな気がしてね」
「だったらなぜ、そんな大切な思い出を詐欺の為に使ったんですか? 思い出が汚れるとは思わなかったんですか?」
彼を今でも忘れられない婦人にとって、それは残酷で腹立たしい言葉だっただろう。だから婦人が怒り出すんじゃないと身構えたのだけど、彼女は小さく頷き「それに気付いたからここに来たの」と苦悩の表情を見せる。
「彼との思い出を餌に詐欺をすることに罪悪感がなかっと言えば嘘になる。けれど、お金の為だと思い、割り切って気にしないようにしてきた。でもね、今回は違っていたの。凄く後味が悪くて嫌な気分になったわ。それはきっと、騙した相手があなただったから……」
「私だったから?」
「そう、あなたは私の思い出話に涙を流し、自ら進んで百万もの大金を肩代わりしてくれた優しい人。そんな真っすぐなあなたを見ていたら、ただひたすら、なんの迷いもなく純粋に彼を愛していた頃の自分を思い出したの」
そして婦人は、犯罪に手を染めた今の自分を彼が見たらどう思うだろうと考えたそうだ。