イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
二十分後、マンションに来た輝樹君が私の顔を見るなり眉を顰める。
当然だよね。泣き腫らした顔を見て微笑む人は居ない。だから「なんかあったの?」と聞かれるのも想定内だった。いや、むしろそう聞かれることを望んでいたのかもしれない。
きっと私は誰かに話しを聞いてもらいたかったんだ。苦しい胸の内を吐き出して楽になりたかった……
そんな自分の気持ちに気付くと堰を切ったように零士先生のことを話し出していた。
「えっ……希穂ちゃんの彼氏って紺野先輩だったの?」
「うん、黙っててごめんね」
「紺野先輩は新太先輩と違って誠実な人だと思っていたのに、他に好きな女性が居るのに希穂ちゃんと付き合ってたなんて……なんかショックだな」
「ショックついでに言うと、その女性というのは、環ちゃんのお母さんなの」
「うそ……」と言ったまま固まる輝樹君に、私と零士先生が付き合っていたということは環ちゃんには内緒にしておいて欲しいとお願いする。
「この先、零士先生と薫さんが付き合うことになったら、ふたりの結婚を望んでいる環ちゃんは嬉しいと思うの。でも、このことを知ったら……私に気を使って素直に喜べないんじゃないかなって思って」
「そうか……希穂ちゃん、優しいね。でも、まだ紺野先輩のこと好きなんでしょ? 本当にそれでいいの?」
いいのかと聞かれれば、素直にいいとは言えない。零士先生を嫌いになって別れたワケじゃないから。でも……
「あの三人が家族になるのは自然なことなんじゃないかな。だって、零士先生は環ちゃんの本当のお父さんなんだもの」