イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
「一応、玄関の方があんなだから、混乱を避ける為にプレオープンの出席者には僕達と同じように裏口から入ってもらうことになったから」
「分かりました。あ、じゃあ、Arielも裏口から?」
「そういうことになるだろうね。玄関からだと大騒ぎになるだろうし」
男性社員は腕時計を確認し「あ~もう一時間しかない!」と叫びながら階段の方に駆けて行く。
その後、私は受付担当の女子社員と打ち合わせをしていたのだけど、時間が経つにつれ、Arielのことが気になりだし、何度もせわしなく階段の方を眺めていた。
でも、人が行き来する足音は聞こえるが、ここからじゃ階段は見えない。
するとその十分後、スタッフは全員、Bギャラリーに集まるよう指示があり、高鳴る胸を押さえつつ階段を上って行く。
そしてドキドキしながらBギャラリーを覗き込むと大勢の来館者の間から、あの白い布が掛けられたArielの新作をジッと見つめている女性の姿がチラリと見え、思わず息を呑む。
あの淡いピンクのワンピースを着た女性、他の来館者となんか雰囲気が違う。もしかして、あの人が……Ariel?
そう思った時、なんというグッドタイミング! 唯一、Arielを知る館長が薫さんに手を引かれ階段を上がってきたんだ。
足元がおぼつかない館長の体を支え、再び入り口に立つと「この中にArielは居る?」と聞いてみる。館長は暫く目を細めArielを探していたが、突然笑顔になり、嬉しそうに叫ぶ。
「ほら、あそこに居るのがArielだよ」
「えっ……?」