イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
すると後ろに控えていた零士先生が司会の課長に何やら耳打ちし、マイクを受け取ると、もうひとり、この個展の陰の功労者を紹介したいと言い出した。
「その人物が居なければ、恐らくこの個展の開催はなかったと思います。Arielもその人物には大変感謝しておりまして、新作公開の際は、一番に感想を聞いてみたいと言っておりました」
そう絶賛した後に呼ばれた名前は……「春華堂社員の宇都宮希穂」
「へっ? 私?」
思いもよらぬ展開に驚き、つい大声を張り上げてしまったものだから、周りに居た人達の視線が一気に私に集中する。
「宇都宮、呼ばれたらすぐに出て来い」
ちょっと待って、そんなの聞いてないんだけど……
「あ、いや、でも……」
いきなり陰の功労者とか言われても、褒められることに慣れてないからオロオロしてしまう。そうこうしていると、いつまで経っても前に出て行こうとしない私に痺れを切らした薫さんに力一杯、背中を押されてしまった。
「ほら、オープンまで時間がないのよ。とっとと行きなさい」
「わわっ!」
つんのめりながら前に出るとニヤリと笑った館長がピースサインをしている。
あ、もしかして、私がArielの大ファンだから、目の前で新作が見れるよう館長が零士先生に頼んでくれたの?
普段はパッとしない地味な館長だけど、今日に限っては、神々しい後光が差して見える。「神だ……」と呟き、私も控えめなピースサインで応えた。
あぁ……館長ったら、なんて粋な計らい。こんな間近でArielの新作を見ることができるなんて……めっちゃ嬉しい。