イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

「れ、零士先生……今なんて?」
 
「んっ? Arielは来れなくなったと言ったんだが、マイクの調子が悪くて聞こえなかったか?」

「い、いえ……聞こえたから驚いているんです」


でも、それはおかしい。館長は間違いなくArielはこの中に居ると言っていた。それなのに、発熱で参加できなくなったっていったいどういうこと? それに、あの絵……


「ああっ!!」


今自分がとんでもない想像してるという自覚はあった。だから大きな深呼吸をし、気持ちを落ち着かせてから恐る恐る零士先生の顔を見上げる。


「もしかして……Arielって……零士先生?」


クスリと笑った彼が腰を折り、顔を近づけてくるとあの爽やかな香りがほんのり香る。そして耳元で囁かれた声は身震いするくらい甘くて優しかった。


「……そう、俺がArielだ」


うそ……零士先生が……Ariel? 


衝撃が強すぎて半分意識が飛んだ状態で零士先生を凝視していると、館長が私の横に来て目の前の零士先生を指差して言う。


「希穂ちゃん、さっきの続きだけど、薄いピンクのネクタイをしているのがAriel。つまり、零士君がArielだ」


今更感がハンパない。


「もぉ~館長の意地悪! 零士先生がArielだって知ってたのに、どうして教えてくれなかったの?」

「あ……それはな、実は昨日まで、Arielと零士君が同一人物だということを知らなかったんだよ……」


館長曰く、零士先生を最後に見たのは高校生の時。それも二、三度チラッと顔を見ただけだったから、大人になった零士先生をパリで見掛けた時、彼とは分からなったそうだ。

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