呪い
1
二宮沙樹(さき)は首を切られようとしていた。
大きな板の上にうつ伏せに寝かされ、数人の男たちにのしかかられている。
どれも、沙樹の体重の三倍もありそうな、いかつい体つきの男たちだ。胴体も手足も押さえこまれて、ぴくりとも動かせない。
首から下だけではない。頭さえも、沙樹の自慢の黒髪をくしゃくしゃにして、ゴリラのような太い手で押さえこまれている。
沙樹のかたわらには、男が立っていた。上半身が裸で、胸にも肩にも筋肉が盛り上がっている。腰には粗末な布を巻いているだけだ。
彼は牛でも真っ二つにできそうな、巨大なまさかりをふり上げようとしていた。
沙樹は頭を動かせないから、それを横目で見ながら、
いやあっ、助けてえっ。
声を限りに叫ぼうとする。まだ十七歳だというのに、死にたくない。
しかし、なぜだか、のどから声が出ることはなかった。
沙樹ばかりではない。男たちも、日本語ではない言葉で何かをしゃべっているらしい。なのに、その声が沙樹の耳に届くことはない。
無音の世界なのだった。
そのことに気がついてもなお、沙樹は声にならない叫び声をあげ続ける。
お願い。助けてえっ。
かたわらの男は少しも躊躇しなかった。
巨大なまさかりを頭上高くふりあげると、沙樹の首めがけて、一気にふりおろした。
まさかりの刃が首の皮に到達した。
それから首を切断しきるまでの、一秒の何分の一かの短い時間、沙樹はこの世のものとも思えない激痛を味わった。
目の前が真っ赤になるような激痛だった。
だがそれも、頭が胴体を離れ、意識がなくなるまでの、つかの間のことだった。
二宮沙樹は十七歳で死んだ――。
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