呪い
康子が、ずいっ、と前へ出てきた。体をくっつけてこられそうな気がして、思わず沙樹は一歩あとじさった。
「な……何よ?」
「二宮さん」
「……はい」
「ごめんなさい、変なこと言って。もう言わないようにします」
康子がぺこりと頭を下げた。
そして、沙樹とは目を合わせずに。背を向けて歩いていった。
猫背でとぼとぼと歩いていく後ろ姿を見送りながら、沙樹は早くも後悔していた。
ばかばかしい話にしろ、聞くだけでも聞いておけばよかった、と思う。
救いをさしのべてくれた手を、自分でふり払ってしまったような気がした。
でも、もう取り返しはつかない……。