呪い
すぐに思い出したのは、九ケ沼康子の言葉だ。
――自分の部屋とか、おうちとかで、変な文字を書いたお札を見ませんでしたか? あるいは……たとえば、人の形に切り抜いた紙とか、藁で作った人形とか……
康子は確かにそう言った。
とすると、この人形で呪いをかけている、ということなのだろうか。このせいで、あの怖い夢を見たのだろうか。
沙樹は薄気味悪くなって、人形の胴体と頭を床に放りだした。
(でも、誰だろう?)
と、疑問に思った。誰がこれをベッドの下に放りこんだのだろう。
沙樹は週に一度、日曜の朝に、自分で部屋を掃除する。まじめ、だからではない。父親の再婚相手に、自分の部屋をかってに掃除されたくなかった。だから、「自分の部屋は自分で掃除します」と約束し、実際にそれを守っている。
前回掃除したのは、三日前の日曜日だ。ベッドの下にも掃除機をかけた。そのときは人形なんてなかった。
うっかり見落とした、という可能性も考えた。
でもあの日は、父と一美さんがいっしょに外出するというので、真由と祥子を呼んでいた。だから、念入りに掃除したのだった。ベッドの下に人形なんてなかった。それは間違いない。
沙樹はハッとした。
あの日は、真由と祥子と三人でお昼に焼きそばを作って食べ、夕方までおしゃべりしていた。
沙樹はその間、何度か席を外している。そのすきに真由か祥子のどちらかが、あるいはふたりがそろってベッドの下に人形を放りこんだ、ということはないだろうか?
(可能性は……あるよね)
と、沙樹は思った。