呪い
一番うしろの隅の席で、眼鏡をかけた少女が黙って本を読んでいる。
九ケ沼(くがぬま)康子だ。
背が高くて、猫背で、全然美人じゃない。似合わないおかっぱ頭で、陰気で、めったに人と話さない。となりのクラスに以前友だちがいたが、少し前、交通事故で亡くなってしまった。
いろんな負の要素をいっぱい持っていて、普通ならイジメにあっていてもおかしくないキャラだ。
沙樹も心の中では「眼鏡ブス」と呼んでいたりする。でも、それを口にすることは決してない。
九ケ沼康子の独特の神秘的な雰囲気がちょっと怖いせいもある。また、彼女が占い師であり、そのカード占いがよく当たるせいもある。噂では、亡くなった親友の死さえ、あらかじめ占いで当てていた、という。
みすぼらしいが、ちょっかいを出すと祟られる神社のような存在なのだった。
その九ケ沼康子がふと本から顔を上げ、沙樹のほうに目を向けてきた。
沙樹と視線が交わった、はずだったが、少しもそんな感じがしなかった。康子は沙樹の全身を見やり、かすかに顔をしかめた。
まるで、
(嫌なものを見てしまった)
とでも言うように。
それから、何ごともなかったかのように目を伏せ、再び本を読みはじめた。