呪い
康子は、これもいつもと変わらず、ひとりで弁当を食べていた。箸を止めて沙樹を見上げた目に、ちらりと憐れむような光が見えた。
できるだけ内心のいらだちを抑えて、沙樹は言葉を続けた。
「ねえ九ケ沼さん、あたしのことをずいぶん気にしているみたいだったけど――」
沙樹の言葉をさえぎるようにして、康子が立ち上がった。
「二宮さん」
「……はい」
名前を呼ばれて、思わずすなおに返事してしまった。眼鏡の奥からじっと沙樹を見る目には、人がひれ伏さずにはいられなくなるような迫力があったのだ。
「ちょっとお話、いいでしょうか?」
「……ええ」
またすなおに返事した。
康子が目で教室の出口を指し、歩きはじめた。
沙樹は黙って彼女のあとについていった。
つれていかれたのは中庭の片隅だった。向こうのベンチでは、昼食を終えた女子生徒たちが楽しそうにおしゃべりしている。
「で、話って何?」
沙樹が訊くと、康子は淡々とした口調で言った。
「二宮さん、このところずいぶんと体調が悪そうですね」
沙樹はぐっとつまった。
「……だ……だれだって、調子の悪いときぐらいあるでしょ」
「二宮さん、呪われていません?」
それはあまりにも淡々とした言いかただった。まるで「もうご飯食べましたか?」みたいな問いだった。そのため、沙樹は意味が呑みこめなかった。
「は?」
「だから……二宮さんが呪いを受けて、それで体調が悪いんじゃないかと思って」