呪い

康子は、これもいつもと変わらず、ひとりで弁当を食べていた。箸を止めて沙樹を見上げた目に、ちらりと憐れむような光が見えた。

できるだけ内心のいらだちを抑えて、沙樹は言葉を続けた。

「ねえ九ケ沼さん、あたしのことをずいぶん気にしているみたいだったけど――」

沙樹の言葉をさえぎるようにして、康子が立ち上がった。

「二宮さん」

「……はい」

名前を呼ばれて、思わずすなおに返事してしまった。眼鏡の奥からじっと沙樹を見る目には、人がひれ伏さずにはいられなくなるような迫力があったのだ。

「ちょっとお話、いいでしょうか?」

「……ええ」

またすなおに返事した。

康子が目で教室の出口を指し、歩きはじめた。

沙樹は黙って彼女のあとについていった。

つれていかれたのは中庭の片隅だった。向こうのベンチでは、昼食を終えた女子生徒たちが楽しそうにおしゃべりしている。

「で、話って何?」

沙樹が訊くと、康子は淡々とした口調で言った。

「二宮さん、このところずいぶんと体調が悪そうですね」

沙樹はぐっとつまった。

「……だ……だれだって、調子の悪いときぐらいあるでしょ」

「二宮さん、呪われていません?」

それはあまりにも淡々とした言いかただった。まるで「もうご飯食べましたか?」みたいな問いだった。そのため、沙樹は意味が呑みこめなかった。

「は?」

「だから……二宮さんが呪いを受けて、それで体調が悪いんじゃないかと思って」

< 9 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop