君の本当をこの瞳で見つめて。
もう早く食べてこの店を出よう。
そう決意した時、オーナーさんが声をかけてきた。
「お店の名前、ちゃんと読めました?」
唐突な話題に、力がストンと抜けるような感覚だった。
仮にこれが油断させるべき話題だとしても、私は確実に逃げられる。
そう思って、聞かれた質問に対して素直に答える。
「ぷるねる??ですか?」
「あはは、やっぱりそう読んじゃいますよね」
笑われたことで、自分が間違っていることを知り、頬を掻いて誤魔化す。
馬鹿がバレた……まあ、いいか。
肯定的な返答だし。
「何て読むんですか?」
「プリュネル。フランス語で瞳という意味です」
「瞳……」
「昔から代々伝わるお店なんです、ここ。叔父が切り盛りしてた頃はもっとお客さんで賑わってたんですけどね。私が店を継いでからというもの……パタリと誰も来なくなりました」
経営、難しい状態なんだ……
確かに、この町の商店街がここまで寂しくなっていれば、ここも影響が出る。
でもまだここの路地裏は、どのお店も閉まっているわけではない。
お客さんが少ない中でも、ああやって頑張って自分の店を守っている。
この人もきっとそんな中で一生懸命頑張ってる……
「お客さんが来なくなっても、私はここを辞める気はありません。昔のように活気で満ち溢れた状態にするのは、なかなかに難しいでしょう。それでも私は、ここを守りたい」
そう重みのある言葉を口にしたオーナーさんに、さっきまで抱いていた感情がふっと消えていった。