君の本当をこの瞳で見つめて。
小さなため息が聞こえたかと思うと、壱目さんはそっと呟いた。
「私はいつでもここで待っています」
心の中を貫き通っていき、モヤモヤと何かを作り出したその言葉を振りほどく。
今にも泣き出しそうになる自分を奮い立たせ、ぺこりとお辞儀をしてお店を出る。
どうしてこんな気持ちになるのか、私自身が知りたい。
あれだけ幸せだった感情がどうして、こんなにも苦しくて……切なくなるのか。
裕治くんの優しい声を思い出したいのに、少し辛そうな壱目さんの声が頭から離れない。
おかしい、こんなのおかしい。
甘くて苦いコーヒーの匂いにきっと、どうかしちゃったのかもしれない。
商店街を抜けて息が上がる程、必死に歩いていたことに気づいたのは、家の近くの公園に着いてから。
無邪気に遊ぶ子供達が私の横を、笑顔で通り抜けていく。
吹き抜けていく風に、上がった体温が徐々に下がっていき、冷静さを取り戻す。
大人なのに一体何してるんだろう……私。
鞄の内ポケットを開けて、先ほど受け取ったブローチを見た。
これを返す時にちゃんと謝らなきゃ。
鞄を担ぎ直し、家へと帰るその足取りはいつもよりも重たかった。