君の本当をこの瞳で見つめて。
遠慮気味に座りながら、椅子を引く。
座っちゃってから、財布の中身を考えた。
ここまでお洒落な店なんだから、安いわけがない。
好奇心だけで入ったけれど、メニューも値段も何も気にしないで入った事に後悔する。
こっちに帰ってくる移動費に、きっと地元の友達とも遊ぶんだから、それなりにお金がかかることは分かりきってた。
収入はまずまずとは言えども、節約できる所は節約するという私の数日前の決心がこの時点で燃え尽きた。
「あのメニューって……」
恐る恐る聞くと、オーナーさんは少々お待ちをという言葉を私に返し、手際よく作業を開始するオーナーさん。
そしてしばらくすると、カウンターに現れてきたのは一杯のコーヒーと、お洒落なティラミス。
メニューを聞いたのにな、なんで?
きょとんとした顔でそれを見つめていると、オーナーさんがくすくすと笑い出す。
「失礼。そんな反応をしてくださったのはあなたが初めてでして」
「えっと……」
困惑する私を落ち着かせるように、オーナーさんは大丈夫と呟いた。
「私の店はメニューというものは存在しないんです。その日入手した豆でコーヒーを煎れ、自分が食べたいと思ったデザートを作る。それが私の店のやり方なんです」
つまり……値段も分からない。
そう告げられてまで、値段を聞こうとも思わない。
仕方なく出されたものを頂くとしよう。