君の本当をこの瞳で見つめて。
気がつくと、あの路地裏の前へ辿りついていた。
無我夢中で路地裏を走り、突き当たりのあのお店の扉を強く開けた。
肺いっぱいに広がる落ち着いたこの空気、コーヒーの香りが漂うこの空間。
そして、暖かく私を迎えてくれる唯一の人。
私の顔を見て驚いたその人はカウンターから出て、私の元へ駆け寄ってきた。
そっと、私の頬を伝う涙を拭って切なそうに唇を噛み締めていた。
そんな彼に、私は我慢することなく抱きついた。
「壱目さん……私、私っ!!もう自分を誤魔化したくない!!」
心の中のドロドロを全て吐き出すように、嗚咽まじりに全てを彼に――壱目さんに全てを話していた。
「……前に付き合ってた彼氏に、言いたい事全部我慢して、でもそれでも向こうのわがままに付き合っていたのにっそれなのに他の女に流れて行っちゃたの。ううん、流れてない。私なんか最初から眼中になかったって、近くにいたから、ちょろいからってだけで私が選ばれて」
「……」
「私はいいように使われる道具。そして、いつも自分の気持ちを良いように変えて誤魔化してた。裕治くんへの過去の憧れの感情も。なのに、急に抱きしめてきたかと思えば、彼女いるし……!」
心のドロドロとした塊は、止まることなく溢れてくるばかり。
でも本当の気持ちはこれじゃない。
これは過去にできた傷を何度もいじっては、治らないものにしていただけ。
「誰かに愛されたいばかりに、突っ走てた自分が情けない。本当に大切なものが近くにあることを、ようやく気づいたの」
最後は小さく呟くとまた涙が溢れ出た。
そんな私の背を優しく壱目さんが撫でる。